問題

出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-2 ベルヌーイ・2項分布の問題です。参考類題として H13.1(4) が挙げられています。目標解答時間は7分。

互いに独立な2つの確率変数 $X$、$Y$ がそれぞれ次の確率分布

$$P(X = x) = \binom{10}{x} p^x (1-p)^{10-x} \qquad (x = 0, 1, \cdots, 10)$$

$$P(Y = y) = p^y (1-p)^{1-y} \qquad (y = 0, 1)$$

に従うとき、$X + Y$ の平均 $E(X+Y)$、分散 $V(X+Y)$、モーメント母関数 $M_{X+Y}(t)$ をそれぞれ求めなさい。

まず何に着目するか

問題文に「2項分布」という語は一度も出てきません。与えられているのは確率関数の式だけです。

これは偶然ではなく、この種の問題の作りです。分布の名前は書籍によって指すものが変わることがあるので、出題側は式で渡してきます。読む側は式から分布を同定します。

$P(X = x)$ は、組合せ記号と $p^x$ と $(1-p)^{10-x}$ の積です。$x$ 回成功して $10-x$ 回失敗する並べ方の数だけ足し合わせた形なので、$X \sim Bin(10, p)$ です。

$P(Y = y)$ のほうは、$y$ が0と1しか取りません。$y = 1$ なら $p$、$y = 0$ なら $1-p$。これはベルヌーイ分布ですが、同時に $Bin(1, p)$ でもあります。

ここが分かれ目です。$Y$ を「ベルヌーイ分布」と呼んだまま止まると、$X$ と $Y$ は別種の分布に見えます。$Bin(1, p)$ と書き直した瞬間に、2つは同じ族の分布になり、再生性が使える形に揃います。

逆に、$X + Y$ の確率関数を畳み込みで作りにいくと時間が溶けます。

$$P(X + Y = z) = \sum_{k} P(X = k) P(Y = z - k)$$

この和を計算しても最後は $Bin(11, p)$ に戻るだけです。目標解答時間7分は、この道に入らないことを前提にした時間です。

解法の筋道

2項分布の特性値を並べておきます。$X \sim Bin(n, p)$、$q = 1 - p$ として

$$E(X) = np, \qquad V(X) = npq, \qquad M_X(t) = (pe^t + q)^n$$

再生性は次の形です。$X \sim Bin(n, p)$、$Y \sim Bin(m, p)$ が互いに独立なら

$$X + Y \sim Bin(n + m, p)$$

この再生性は覚えなくても作れます。独立な確率変数の和の積率母関数は、積率母関数の積になるからです。

$$M_{X+Y}(t) = E\left[e^{t(X+Y)}\right] = E\left[e^{tX}\right] E\left[e^{tY}\right] = M_X(t) M_Y(t)$$

期待値が積に分かれるところで独立性を使っています。あとは実際に掛けるだけです。

$$M_X(t) M_Y(t) = (pe^t + q)^{10} \cdot (pe^t + q)^1 = (pe^t + q)^{11}$$

右辺は $Bin(11, p)$ の積率母関数そのものです。積率母関数が一致すれば分布も一致するので、$X + Y \sim Bin(11, p)$ が証明できました。指数が足し算になる、それだけのことです。

方針が決まりました。積率母関数を掛けて $n$ を確定させ、その $n$ で平均と分散を書く。

計算

$X \sim Bin(10, p)$、$Y \sim Bin(1, p)$ で、互いに独立です。再生性より

$$X + Y \sim Bin(11, p)$$

したがって

$$E(X + Y) = 11p$$

$$V(X + Y) = 11p(1-p)$$

$$M_{X+Y}(t) = \left\{pe^t + (1-p)\right\}^{11}$$

3つとも $n = 11$ を入れただけです。

検算をしておきます。平均は期待値の線形性から、分散は $X$ と $Y$ が独立であることから、再生性を使わなくても直接出ます。

$$E(X + Y) = E(X) + E(Y) = 10p + p = 11p$$

$$V(X + Y) = V(X) + V(Y) = 10p(1-p) + p(1-p) = 11p(1-p)$$

一致しました。平均と分散だけなら再生性は要りません。再生性が本当に効くのは3つ目、積率母関数を「$Bin(11,p)$ のもの」として書き切るところです。

つまずきポイント:成功確率が違っても和は2項分布になる、と思ってしまう

再生性が成り立つのは、2つの分布の成功確率 $p$ が共通のときだけです。

$X \sim Bin(10, p_1)$、$Y \sim Bin(1, p_2)$ で $p_1 \neq p_2$ のとき、

$$X + Y \sim Bin(11, p) \quad \text{(これは誤り)}$$

積率母関数を掛けてみれば分かります。

$$M_{X+Y}(t) = (p_1 e^t + q_1)^{10} (p_2 e^t + q_2)$$

底が違うので、指数法則でまとめられません。$(pe^t + q)^{11}$ の形には決してならず、和は2項分布ではない別の分布になります。

同じ罠は、試行回数 $n$ のほうにはありません。$n$ は足せばよく、揃っている必要があるのは $p$ のほうです。この非対称は、2項分布が「同じコインを $n$ 回投げた回数」だと思い出せば納得できます。コインの表が出る確率が違えば、まとめて1つのコインとして扱うことはできません。

一方、平均と分散のほうは $p$ が違っても計算できます。期待値の線形性は分布の族を問わず、分散も独立でありさえすれば足せるからです。

$$E(X + Y) = 10p_1 + p_2, \qquad V(X + Y) = 10p_1q_1 + p_2q_2$$

「和の分布が何になるか」と「和の平均と分散がいくつか」は別の問いです。後者はほとんど常に答えられ、前者は再生性が成り立つ場合に限られる。この線引きが、離散型分布の問題を解くときの基準になります。

本試験ではこう問われる

原問は2001年度(H13)問題1(4)です。構造は同じで、試行回数が違います。

互いに独立な2つの確率変数 $X$、$Y$ がそれぞれ次の確率分布

$$P(X = x) = \binom{5}{x} p^x (1-p)^{5-x} \quad (x = 0,1,2,3,4,5), \qquad P(Y = y) = p^y (1-p)^{1-y} \quad (y = 0, 1)$$

に従うとき(後略)

$Bin(5, p)$ と $Bin(1, p)$ なので、和は $Bin(6, p)$。平均は $6p$、分散は $6p(1-p)$、積率母関数は $\{pe^t + (1-p)\}^6$ です。類題の11が6に変わるだけで、手順はそのままです。

分布名を伏せて確率関数だけを渡す出題は、この年度に限りません。同じ2001年度の問題1(6)は確率密度関数だけを与えて分布を判別させ、問題1(8)は密度関数から変数変換後の密度を求めさせています。名前で覚えているだけでは対応できない形が並んでいます。

再生性を持つ分布は限られているので、まとめて押さえておくと判断が速くなります。

足す分布 和の分布 揃っている必要があるもの
$Bin(n, p)$ と $Bin(m, p)$ $Bin(n+m, p)$ 成功確率 $p$
$Po(\lambda_1)$ と $Po(\lambda_2)$ $Po(\lambda_1 + \lambda_2)$ なし
$N(\mu_1, \sigma_1^2)$ と $N(\mu_2, \sigma_2^2)$ $N(\mu_1+\mu_2, \sigma_1^2+\sigma_2^2)$ なし
幾何分布 $NB(1, p)$ を $n$ 個 $NB(n, p)$ 成功確率 $p$
ガンマ分布どうし 形状母数が足される 尺度母数

いずれも、足し合わせる確率変数どうしが独立であることが前提です。そのうえで積率母関数を掛ければその場で確かめられます。表を覚えるより、掛けて指数が足せるかどうかを見るほうが確実です。

まとめ

  • 分布名が書かれていない問題は、確率関数の形から分布を同定するところから始まる。
  • 0と1しか取る値がない分布は、ベルヌーイ分布であり $Bin(1, p)$ でもある。書き直すと再生性の形に揃う。
  • 再生性は暗記しなくてよい。独立なら積率母関数が積になり、指数が足されて出てくる。
  • 再生性が成り立つのは成功確率 $p$ が共通のときだけ。試行回数 $n$ は揃っていなくてよい。
  • 平均と分散は $p$ が違っても線形性で出る。「和の分布」と「和の平均・分散」は別の問い。