問題

出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-7 離散型分布一般の問題です。参考類題として H13.1(9) が挙げられています。目標解答時間は7分。

箱の中に1から6までの数字を書いたカードが1枚ずつ入っており、その箱から、すべてのカードを1枚ずつ非復元抽出で引き出していく。

このとき、少なくとも1枚のカードについて、引き出した順番とそのカードの数字が一致する確率を求めなさい。

ただし、小数点以下第5位を四捨五入して、小数点以下第4位まで求めよ。

まず何に着目するか

「少なくとも1枚」と聞いたら、まず余事象を疑います。1枚も一致しない確率を求めて1から引く、という道です。

ところが、この余事象は簡単には出ません。「1枚も一致しない並べ方」は完全順列と呼ばれ、その個数を数えるには結局それなりの仕掛けが要ります。余事象に逃げれば楽になる、という単純な話ではありません。

もう1つの道が包除原理です。$A_i$ を「$i$ 番目に引いたカードの数字が $i$ である」という事象とすると、求めるのは $P(A_1 \cup A_2 \cup \cdots \cup A_6)$。和集合の確率なので、包除原理がそのまま当てはまります。

着目すべきは、非復元抽出だという点です。ここを見落とすと、次のように考えてしまいます。「1回ごとに一致する確率は $1/6$、一致しない確率は $5/6$。6回とも一致しないのは $(5/6)^6$」。

$$1 - \left(\frac{5}{6}\right)^6 = 0.6651 \quad \text{(これは誤り)}$$

6つの事象は独立ではありません。1番目に1を引いてしまえば、2番目に1が来ることはもうない。カードを戻さない以上、前の結果が後の確率を変えます。独立性を前提にした計算はすべて崩れます。

解法の筋道

包除原理を書き下します。事象 $A_1, \dots, A_n$ に対して

$$P\left(\bigcup_{i=1}^{n} A_i\right) = \sum_{r=1}^{n} (-1)^{r-1} \sum_{1 \leq i_1 < \cdots < i_r \leq n} P\left(A_{i_1} \cap \cdots \cap A_{i_r}\right)$$

1つずつ足して、2つずつ引いて、3つずつ足して、と交互に符号が変わります。

$r$ 個の事象が同時に起きる確率を求めます。指定した $r$ 箇所で数字が一致するのは、その $r$ 枚の位置が決まっていて、残り $6 - r$ 枚が自由に並ぶ場合です。

$$P\left(A_{i_1} \cap \cdots \cap A_{i_r}\right) = \frac{(6-r)!}{6!}$$

どの $r$ 個を選んでも同じ値になるので、内側の和は組合せの個数を掛けるだけです。

$$\sum_{1 \leq i_1 < \cdots < i_r \leq 6} P\left(A_{i_1} \cap \cdots \cap A_{i_r}\right) = \binom{6}{r} \cdot \frac{(6-r)!}{6!}$$

ここで約分が起きます。

$$\binom{6}{r} \cdot \frac{(6-r)!}{6!} = \frac{6!}{r!\,(6-r)!} \cdot \frac{(6-r)!}{6!} = \frac{1}{r!}$$

$6!$ も $(6-r)!$ も消えて、$\dfrac{1}{r!}$ だけが残りました。カードの枚数が式から消えたことに注目してください。これが後で効いてきます。

計算

包除原理に代入します。

$$P\left(\bigcup_{i=1}^{6} A_i\right) = \sum_{r=1}^{6} (-1)^{r-1} \frac{1}{r!} = \frac{1}{1!} - \frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} - \frac{1}{4!} + \frac{1}{5!} - \frac{1}{6!}$$

順に値を出します。

$r$ 1 2 3 4 5 6
$1/r!$ 1 0.500000 0.166667 0.041667 0.008333 0.001389
符号 $+$ $-$ $+$ $-$ $+$ $-$
累計 1 0.500000 0.666667 0.625000 0.633333 0.631944

答えは 0.6319 です。

累計の欄を縦に見ると、値が上下に振れながら狭まっていくのが分かります。交代級数なので、真の値は必ず隣り合う2つの累計の間に挟まれます。$r = 5$ で0.633333、$r = 6$ で0.631944。この2つの間に答えがあると分かった時点で、小数第4位まで求めるには $r = 6$ まで計算する必要があると判断できます。

別解:完全順列の個数を数える

余事象から入る道も見ておきます。1枚も一致しない並べ方の個数を完全順列の数といい、$n$ 枚のときの個数を $a_n$ と書きます。

$$a_1 = 0, \quad a_2 = 1, \quad a_3 = 2, \quad a_4 = 9, \quad a_5 = 44, \quad a_6 = 265$$

6枚の並べ方は全部で $6! = 720$ 通りなので、1枚も一致しない確率は

$$\frac{265}{720} = 0.368056$$

求める確率は $1 - 0.368056 = 0.631944$。同じ答えになりました。

$a_n$ には漸化式があります。$n \geq 2$ のとき

$$a_{n+1} = n\left(a_n + a_{n-1}\right)$$

$a_6 = 5(a_5 + a_4) = 5(44 + 9) = 265$ で合っています。個数さえ覚えておけば、こちらのほうが速い場面もあります。ただし包除原理の道は枚数が変わっても同じ手順で進めるので、初見の数字に強いのはそちらです。

つまずきポイント:$P(A_i \cap A_j)$ を $\left(\dfrac{1}{6}\right)^2$ としてしまう

非復元抽出なのに、独立を仮定してしまう誤りです。

$$P(A_i \cap A_j) = \frac{1}{6} \cdot \frac{1}{6} = \frac{1}{36} \quad \text{(これは誤り)}$$

$$P(A_i \cap A_j) = \frac{1}{6} \cdot \frac{1}{5} = \frac{1}{30} \quad \text{(正しい)}$$

$i$ 番目に $i$ が来たという条件のもとで、$j$ 番目($j \neq i$)に $j$ が来る確率を考えます。カードは戻さないので、$i$ 番目を除いた残り5つの位置に残り5枚が均等に並びます。その中で $j$ 番目に $j$ が来る確率は $1/5$ です。$1/6$ ではありません。

一般に $r$ 個が同時に一致する確率は

$$\frac{1}{6} \cdot \frac{1}{5} \cdot \frac{1}{4} \cdots \frac{1}{6-r+1} = \frac{(6-r)!}{6!}$$

分母が1ずつ減っていく。この「減っていく」ところが非復元の効果です。復元抽出なら分母は6のまま並び、$\left(\dfrac{1}{6}\right)^r$ になります。

誤ったほうで包除原理を計算すると、$r$ 番目の項は $\binom{6}{r}\left(\dfrac{1}{6}\right)^r$ となり、和は $1 - \left(\dfrac{5}{6}\right)^6 = 0.6651$ に落ち着きます。冒頭で挙げた誤答と同じ値です。0.6319との差は0.03ほどで、桁が違うわけではないぶん、気づきにくい誤りです。

見分け方は、問題文と設定から復元か非復元かを必ず確定させることです。「元に戻さない」「非復元」とあれば、同時確率の分母が1つずつ減っていくかを確認する。明記がない場合も勝手に決めず、カードを引いて並べる・くじを引き切る、といった設定なら非復元が自然です。この一手間を省かないことです。

本試験ではこう問われる

原問は2001年度(H13)問題1(9)です。カードの枚数が違います。

箱の中に1から5までの数字を書いたカードが1枚ずつ入っている。その箱から、すべてのカードを1枚ずつ引き出していく時(非復元抽出)、少なくとも1枚のカードについて、引き出した順番とそのカードの数字が一致する確率は◻である。(小数点以下第4位を四捨五入して、小数点以下第3位まで求めよ。)

5枚なので、和を1つ手前で止めます。

$$\frac{1}{1!} - \frac{1}{2!} + \frac{1}{3!} - \frac{1}{4!} + \frac{1}{5!} = 0.633333$$

答えは0.633です。完全順列の側から見ても $1 - \dfrac{44}{120} = 0.633333$ で一致します。

枚数が6から5に減っても、答えは0.6319から0.6333へ、0.0014しか動きません。理由は、先ほど式から枚数が消えたところにあります。$n$ 枚のときの確率は

$$\sum_{r=1}^{n} \frac{(-1)^{r-1}}{r!}$$

で、$n$ が増えても付け加わる項が $1/r!$ の速さで小さくなっていくだけです。$n \to \infty$ での極限は

$$\sum_{r=1}^{\infty} \frac{(-1)^{r-1}}{r!} = 1 - e^{-1} = 0.632121$$

枚数 4 5 6 7 極限
確率 0.625000 0.633333 0.631944 0.632143 0.632121

7枚でもう小数第4位まで極限と一致しています。カードが何枚でも、答えはおよそ0.632。この事実を知っていれば、計算した値がその近くにあるかで検算できます。逆に、この値から大きく外れたら、どこかで独立性を仮定しています。

なお、原問の同じ年度の問題1(4)は2項分布の再生性を、問題1(5)は中心極限定理を扱っています。問題1の小問は分野をまたいで並ぶので、名前の付いた分布に当てはまらない数え上げの問題も1問は混ざる、という構えでいるのが安全です。

まとめ

  • 「少なくとも1つ」は和集合の確率。包除原理がそのまま使える。
  • 非復元抽出なので $r$ 個の同時確率は $(6-r)!/6!$。分母が1ずつ減っていく。
  • 組合せ記号と約分して $1/r!$ だけが残る。ここでカードの枚数が式から消える。
  • 答えは交代級数 $1 - 1/2! + 1/3! - \cdots$ の部分和。6枚で0.6319、原問の5枚で0.633。
  • 枚数を増やした極限は $1 - e^{-1} = 0.6321$。7枚でほぼ到達するので、検算の目安に使える。