問題

出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-5 負の2項分布の問題です。参考類題として H15.1(5) が挙げられています。目標解答時間は7分。

確率変数 $X$、$Y$ が互いに独立で、それぞれ負の二項分布 $NB(\alpha, p)$、$NB(\beta, p)$ に従うとき、すなわちそれぞれ

$$P(X = k) = \binom{-\alpha}{k} p^{\alpha}\{-(1-p)\}^{k} \qquad (k = 0, 1, 2, \cdots;\ \alpha > 0,\ 0 < p < 1)$$

$$P(Y = k) = \binom{-\beta}{k} p^{\beta}\{-(1-p)\}^{k} \qquad (k = 0, 1, 2, \cdots;\ \beta > 0,\ 0 < p < 1)$$

に従うとき、$X + Y$ の積率母関数 $M_{X+Y}(t)$ を求めよ。

まず何に着目するか

確率関数の書き方が見慣れない形です。二項係数の上側に $-\alpha$ という負の数が入っています。

まずここを読み解きます。二項係数は上側が負でも定義できます。

$$\binom{-\alpha}{k} = \frac{(-\alpha)(-\alpha-1)\cdots(-\alpha-k+1)}{k!}$$

分子には $k$ 個の因子があり、すべてに負号が付いています。まとめて外に出すと

$$\binom{-\alpha}{k} = (-1)^k \frac{\alpha(\alpha+1)\cdots(\alpha+k-1)}{k!}$$

一方、確率関数のもう一方の因子 $\{-(1-p)\}^k$ にも $(-1)^k$ が含まれています。掛け合わせると $(-1)^k \cdot (-1)^k = 1$ で、負号が消えます。

$$P(X = k) = \frac{\alpha(\alpha+1)\cdots(\alpha+k-1)}{k!}\, p^{\alpha} (1-p)^{k}$$

見慣れた形になりました。分子はガンマ関数を使って $\Gamma(\alpha+k)/\Gamma(\alpha)$ と書けます。

この書き方は、負の指数の二項展開(一般化二項定理)に合わせたものです。名前の「負」もこの負の指数に由来します。結果として、通常の二項分布と同じ見た目に揃うという利点があります。

もう1つ着目すべき点があります。$\alpha$ と $\beta$ は正の実数としか書かれていません。整数とは限らない。幾何分布を $n$ 個足したものという説明は、整数のときにしか使えません。この問題は、その説明に頼らずに再生性を示すことを求めています。

解法の筋道

負の二項分布の積率母関数は次の形です。

$$M_X(t) = \left(\frac{p}{1 - (1-p)e^t}\right)^{\alpha}$$

独立な確率変数の和の積率母関数は、積になります。

$$M_{X+Y}(t) = M_X(t)\, M_Y(t)$$

これだけです。方針としては、2つを掛けて指数をまとめる。

なぜ確率の総和が1になるのかも、この書き方なら1行で確かめられます。一般化二項定理は、実数 $s$ と $|x| < 1$ について

$$(1 + x)^{s} = \sum_{k=0}^{\infty} \binom{s}{k} x^{k}$$

$s = -\alpha$、$x = -(1-p)$ と置きます。

$$\sum_{k=0}^{\infty} \binom{-\alpha}{k} \{-(1-p)\}^{k} = \{1 - (1-p)\}^{-\alpha} = p^{-\alpha}$$

両辺に $p^{\alpha}$ を掛ければ、確率の総和がちょうど1になります。負の数を上側に置く書き方には、この確認が1行で済むという利点もあります。

計算

$X \sim NB(\alpha, p)$、$Y \sim NB(\beta, p)$ で、互いに独立です。積率母関数を掛けます。

$$M_{X+Y}(t) = M_X(t)\, M_Y(t) = \left(\frac{p}{1-(1-p)e^t}\right)^{\alpha} \left(\frac{p}{1-(1-p)e^t}\right)^{\beta}$$

底が同じなので指数が足せます。

$$M_{X+Y}(t) = \left(\frac{p}{1-(1-p)e^t}\right)^{\alpha + \beta}$$

答えはこれです。

右辺は $NB(\alpha+\beta, p)$ の積率母関数そのものです。積率母関数が一致すれば分布も一致するので、

$$X + Y \sim NB(\alpha + \beta,\ p)$$

が言えたことになります。この問題は積率母関数を求める問題の形をしていますが、解いた内容は再生性の証明そのものです。

存在する範囲も見ておきます。$1 - (1-p)e^t > 0$ が必要なので

$$e^t < \frac{1}{1-p} \quad \Longleftrightarrow \quad t < -\log(1-p)$$

$X$ と $Y$ で $p$ が共通なので、この条件も共通です。和を取っても範囲は狭まりません。

別解:幾何分布まで下ろしてから積む

積率母関数の公式を覚えていない場合の道も見ておきます。

幾何分布 $Z \sim NB(1, p)$ の確率関数は $P(Z = k) = p(1-p)^k$($k = 0, 1, 2, \dots$)です。積率母関数を定義から出します。

$$M_Z(t) = \sum_{k=0}^{\infty} e^{tk} p (1-p)^{k} = p \sum_{k=0}^{\infty} \left\{(1-p)e^t\right\}^{k} = \frac{p}{1 - (1-p)e^t}$$

公比 $(1-p)e^t$ の等比級数の和です。$\alpha$ が正の整数なら、$NB(\alpha, p)$ は独立な幾何分布 $\alpha$ 個の和なので、積率母関数は $\left(M_Z(t)\right)^{\alpha}$ になります。

ただし、この道筋には注意が要ります。$\alpha$ 個の幾何分布を足す、という解釈が使えるのは $\alpha$ が正の整数のときだけです。$\alpha$ が実数の場合、$\left(M_Z(t)\right)^{\alpha}$ という式自体は意味を持ちますが、「幾何分布を $\alpha$ 個足したもの」という説明は成り立ちません。

式のうえでは $\alpha$ が正の実数であればよく、再生性も整数に限らず成り立ちます。整数の場合の解釈は理解の助けになり、整数 $\alpha$ に限れば証明にもなりますが、実数 $\alpha$ 全体を覆うには本解の一般化二項定理の計算が要ります。この問題が $\alpha > 0$、$\beta > 0$ とだけ書いているのは、そこを意識させるためです。

つまずきポイント:$(1-p)$ と $(p-1)$ の符号を取り違える

問題文の $\{-(1-p)\}^k$ は $(p-1)^k$ と同じものです。負号を外に出すか中に入れるかの違いしかありません。

ところが、二項係数の負号と合わせて2か所に $(-1)^k$ が現れるので、片方だけを処理すると符号が残ります。

$$P(X = k) = (-1)^k\frac{\Gamma(\alpha+k)}{\Gamma(\alpha)k!}p^{\alpha}(1-p)^k \quad \text{(これは誤り)}$$

$$P(X = k) = \frac{\Gamma(\alpha+k)}{\Gamma(\alpha)k!}p^{\alpha}(1-p)^k \quad \text{(正しい)}$$

確率が負になり得る時点で誤りだと気づけます。この形の取り違えは $k$ が奇数のときだけ符号が負になるので、$k = 1$ を入れて確かめるのが早い。

$$\binom{-\alpha}{1}\{-(1-p)\}^{1} p^{\alpha} = (-\alpha) \cdot \{-(1-p)\} \cdot p^{\alpha} = \alpha(1-p)p^{\alpha}$$

負号が2つで打ち消し合って正になります。

もう1つの取り違えは、成功確率が違っても再生性が使えると思ってしまうことです。$X \sim NB(\alpha, p_1)$、$Y \sim NB(\beta, p_2)$ で $p_1 \neq p_2$ のとき、積率母関数は

$$\left(\frac{p_1}{1-(1-p_1)e^t}\right)^{\alpha}\left(\frac{p_2}{1-(1-p_2)e^t}\right)^{\beta}$$

底が違うのでまとめられません。揃っている必要があるのは $p$ のほうで、$\alpha$ と $\beta$ は揃っていなくてよい。2項分布で $p$ が揃っている必要があったのと同じ構造です。

本試験ではこう問われる

原問は2003年度(H15)問題1(5)です。設定も記号も類題と一致しています。

確率変数 $X$、$Y$ が互いに独立で、それぞれ負の二項分布

$$P(X = k) = \binom{-\alpha}{k} p^{\alpha}(p-1)^{k} \quad (k = 0,1,2,\cdots;\ \alpha > 0)$$

$$P(Y = k) = \binom{-\beta}{k} p^{\beta}(p-1)^{k} \quad (k = 0,1,2,\cdots;\ \beta > 0,\ 0 < p < 1)$$

に従うとき、$X + Y$ の積率母関数は $M(t) = \fbox{ }$ である。

$\{-(1-p)\}^k$ が $(p-1)^k$ と書かれている点だけが表記の違いで、同じものです。答えも同じ $\left(\dfrac{p}{1-(1-p)e^t}\right)^{\alpha+\beta}$ になります。

型Cの記事では原問と類題の食い違いを毎回確かめていますが、この問題については数値も設定も完全に一致していました。

負の二項分布が出た年度は、平成12年度から令和7年度までの26年度のうち5年度です。名前が明示される回数は多くありませんが、幾何分布の和として顔を出す形を含めるともう少し増えます。

再生性を持つ分布はいくつかあり、揃えるべき母数がそれぞれ違います。

分布 和の分布 揃っている必要があるもの
2項分布 $Bin(n+m, p)$ 成功確率 $p$
負の2項分布 $NB(\alpha+\beta, p)$ 成功確率 $p$
ポアソン分布 $Po(\lambda_1+\lambda_2)$ なし
ガンマ分布 $\Gamma(\alpha_1+\alpha_2, \beta)$ 第2母数 $\beta$
正規分布 $N(\mu_1+\mu_2, \sigma_1^2+\sigma_2^2)$ なし

いずれも積率母関数を掛けて、底が同じかどうかを見れば判定できます。表を覚えるより、掛けてみるほうが確実です。

まとめ

  • 二項係数の上側が負の数になっているのが名前の由来。$(-1)^k$ が2か所に現れて打ち消し合う。
  • この書き方だと、一般化二項定理から確率の総和が1になることが1行で確かめられる。
  • 独立な和の積率母関数は積。底が同じなので指数が足され、$\alpha+\beta$ が出る。
  • 解いた内容がそのまま再生性の証明になっている。$\alpha$、$\beta$ は正の実数でよく、整数に限らない。
  • 揃っている必要があるのは成功確率 $p$。形状母数のほうは揃っていなくてよい。