問題
出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-3 ポアソン分布の問題です。参考類題として H17.1(9) が挙げられています。目標解答時間は7分。
あるウェブサイトへの1時間あたりのアクセス数は、平均30のポアソン分布に従うものとする。
このとき、$\alpha$ 時間あたりのアクセス数は平均がいくつの何の分布に従うか答えなさい。
また、アクセスの間隔を $T$ 時間とすると、$T$ は平均がいくつの何の分布に従うか答えなさい。
さらに、最新のアクセスが今から6分前にあったことが判明しているとすると、今から10分以内にアクセスがある確率を求めなさい。
まず何に着目するか
3つの問いが並んでいますが、内容は「同じ現象を2つの分布で見る」という1本の筋です。
前半は件数の話です。この種の問題は、アクセスがポアソン過程に従う——どの区間の件数も区間の長さに比例した平均のポアソン分布に従い、重ならない区間どうしの件数は独立——という標準的な読み方をします。この読み方のもとでは、1時間で平均30なら $\alpha$ 時間では平均 $30\alpha$。ポアソン分布の再生性で確かめられます。1時間を細かく割った独立なポアソン分布を足し合わせても、やはりポアソン分布のままだからです。
後半で見方が変わります。$T$ はアクセスの間隔、つまり時間そのものです。件数を数える分布から、時間を測る分布へ渡らなければなりません。
その橋は分布関数です。「間隔が $t$ 以下である」という出来事と、「$t$ 時間の間にアクセスが1件以上ある」という出来事は、同じことを言い換えただけです。前者は $T$ の言葉、後者はポアソン分布の言葉。ここを等号で結べば渡れます。
最後の問いには余分な情報が入っています。「最新のアクセスが6分前」という条件です。指数分布の無記憶性を知っていれば、この条件は捨ててよいと即座に判断できます。知らなければ条件付き確率を立てることになり、計算量が増えます。同じ答えに着きますが、7分の中では差が出ます。
解法の筋道
使う道具は、ポアソン分布の確率関数と、無記憶性の2つだけです。
$$P(X = k) = e^{-\lambda} \frac{\lambda^k}{k!}, \qquad k = 0, 1, 2, \dots$$
橋の渡り方を先に言葉で書いておきます。$T \leq t$ となるのは、$t$ 時間の中にアクセスが少なくとも1件あるときです。裏返せば、$T > t$ となるのは $t$ 時間で1件も来なかったときです。ポアソン分布で「0件」の確率は $e^{-\lambda t}$ という簡単な形をしているので、余事象から入るほうが速い。
$$P(T > t) = P(\text{$t$ 時間で0件}) = e^{-30t}$$
$$F(t) = P(T \leq t) = 1 - e^{-30t}$$
これは平均 $1/30$ の指数分布の分布関数そのものです。件数を数えていたはずが、間隔を測る分布に変わりました。
無記憶性のほうは、指数分布に固有の性質です。任意の $s, t > 0$ について
$$P(T > s + t \mid T > s) = P(T > t)$$
すでに $s$ だけ待ったという事実が、これから先の待ち時間の分布を変えない。だから「6分前にアクセスがあった」は、答えに使わなくてよい情報になります。
計算
前半。$\alpha$ 時間あたりのアクセス数は、平均 $30\alpha$ のポアソン分布に従います。
$$P(X = k) = e^{-30\alpha} \frac{(30\alpha)^k}{k!}, \qquad k = 0, 1, 2, \dots$$
中盤。$T$ の分布関数を求めます。$t$ 時間あたりのアクセス数が0件である確率は、上の式で $\alpha = t$、$k = 0$ として $e^{-30t}$ です。したがって
$$F(t) = P(T \leq t) = 1 - e^{-30t}$$
指数分布 $Ex(\lambda)$ の分布関数 $1 - e^{-\lambda t}$ と見比べれば $\lambda = 30$、平均は $1/30$ 時間、すなわち2分です。
1時間に平均30件来るのだから、間隔の平均は2分。この対応は暗算で検算できます。
後半。無記憶性により、すでに6分経っているという条件は残りの待ち時間の分布を変えません。求めるのは、新しく測り直した「今から10分以内にアクセスがある確率」と同じです。時間の単位を揃えて、10分 $= 10/60$ 時間。
$$P\!\left(T \leq \frac{10}{60}\right) = F\!\left(\frac{1}{6}\right) = 1 - e^{-30 \cdot \frac{1}{6}} = 1 - e^{-5}$$
答えは $1 - e^{-5}$、およそ0.9933です。
無記憶性を使わずに解くと
無記憶性を使ってよいのか不安なときのために、条件付き確率で正面から計算しておきます。条件は $T \geq 6/60$、求めるのは $T \leq 6/60 + 10/60 = 16/60$ となる確率です。
$$P\!\left(T \leq \frac{16}{60} \ \middle|\ T \geq \frac{6}{60}\right) = \frac{F(16/60) - F(6/60)}{1 - F(6/60)}$$
$F(t) = 1 - e^{-30t}$ を入れます。$30 \cdot \frac{16}{60} = 8$、$30 \cdot \frac{6}{60} = 3$ なので
$$= \frac{(1 - e^{-8}) - (1 - e^{-3})}{e^{-3}} = \frac{e^{-3} - e^{-8}}{e^{-3}} = 1 - e^{-5}$$
同じ答えになりました。分子と分母の $e^{-3}$ が約分で消える、この一点が無記憶性の正体です。「すでに3単位ぶん待った」という情報が、割り算のたびに消えていく。
指数分布でこれが起きるのは、$e^{-\lambda(s+t)} = e^{-\lambda s} \cdot e^{-\lambda t}$ と分解できるからです。生存確率が積に分かれる分布は指数分布しかなく、だから連続分布で無記憶性を持つのも指数分布だけになります。
つまずきポイント:平均を $\lambda$ と書くか $1/\lambda$ と書くか
指数分布は書籍によって記法が違います。ここが取り違えの温床です。
$$f(x) = \lambda e^{-\lambda x} \quad \text{($x \geq 0$。平均は $1/\lambda$)}$$
$$f(x) = \frac{1}{\lambda} e^{-x/\lambda} \quad \text{($x \geq 0$。平均は $\lambda$)}$$
どちらも「パラメータ $\lambda$ の指数分布」と呼ばれることがあり、平均は互いに逆数です。過去問の中でも表記が揺れています。
この問題では $F(t) = 1 - e^{-30t}$ が出た時点で、指数の肩に付いている30が発生率のほうだと分かります。平均は $1/30$ 時間で、30時間ではありません。1時間に30件来るのに間隔の平均が30時間では話が合わない、という常識で押さえるのが確実です。
対処法は決まっています。分布の名前とパラメータの値だけで受け渡しをせず、$f(x)$ か $F(t)$ の形を一度書くこと。問題文が平均で与えているのか発生率で与えているのかは、そこで必ず判別できます。
本試験ではこう問われる
原問は2005年度(H17)問題1(9)です。構造は同じで、数字が3か所違います。
あるホームページへの1時間あたりのアクセス数は、平均15のポアソン分布に従うものとする。このとき、$\alpha$ 時間あたりのアクセス数は◻の分布に従う。また、アクセスの間隔を $T$ 時間とすると、$T$ は◻の分布に従う。最新のアクセスが今から3分前にあったことが判明しているとすると、今から5分以内にアクセスがある確率は◻である。
平均15、3分前、5分以内。公式解答は「平均 $15\alpha$ のポアソン分布」「平均 $1/15$ の指数分布」、そして確率は $1 - e^{-5/4}$ です。
5分 $= 1/12$ 時間なので $15 \times \frac{1}{12} = \frac{5}{4}$。類題で $1 - e^{-5}$ だったものが $1 - e^{-5/4}$ になります。値にすると0.9933から0.7135へ、ずいぶん下がります。指数の肩は発生率と時間の積なので、両方が半分になれば肩は4分の1になる。数字を差し替えるだけの問題ですが、単位の換算を1か所でも落とすと合いません。
ポアソン分布と指数分布を行き来させる形は、この年度に限りません。同じく本記事の類題と同系統の出題として、2016年度(H28)問題1(1)は「記憶喪失性を持つ分布を選べ」と直接聞いており、選択肢に幾何分布と指数分布が並んでいます。離散側の幾何分布と連続側の指数分布が対になっていることを知っているかが問われます。
覚えておくべき対応は次の3つです。
| 見方 | 分布 | 何を数えるか |
|---|---|---|
| 件数 | ポアソン分布 $Po(\lambda t)$ | $t$ の間に何件起きたか |
| 間隔 | 指数分布 $Ex(\lambda)$ | 次の1件までの待ち時間 |
| 累積 | ガンマ分布 | $n$ 件目までの待ち時間 |
3つ目まで含めて1組です。間隔を $n$ 個足せばガンマ分布になるので、「$n$ 件目が起きるまでの時間」を聞かれたらそちらに移ります。この記事の問題は、その入口にあたる部分です。
まとめ
- ポアソン分布の再生性より、$\alpha$ 時間あたりの件数は平均 $30\alpha$ のポアソン分布。
- 件数から間隔へは分布関数で渡る。$P(T > t)$ は「0件の確率」なので $e^{-30t}$。
- 出てきた $F(t) = 1 - e^{-30t}$ は平均 $1/30$ 時間、つまり2分の指数分布。
- 無記憶性により「6分前にアクセスがあった」は捨ててよい。条件付き確率で解いても $e^{-3}$ が約分で消える。
- 指数分布はパラメータの流儀が2つある。名前ではなく $F(t)$ の形で受け渡す。