問題
出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第2章 連続型分布、2-3 ガンマ分布の問題です。参考類題として H18.1(2) が挙げられています。目標解答時間は7分。
確率変数 $X, Y, Z$ は互いに独立で、ともに平均 $\lambda$ の指数分布に従う。このとき、$X+Y+Z$ の歪度 $\left(\dfrac{\mu_3}{\sigma^3}\right)$ と尖度 $\left(\dfrac{\mu_4}{\sigma^4}\right)$ の値をそれぞれ求めよ。
ここに、$\mu_k$:$X+Y+Z$ の平均 $\mu$ のまわりの $k$ 次積率、$\sigma$:$X+Y+Z$ の標準偏差 とする。
まず何に着目するか
定義どおりに進めるなら、まず $S = X+Y+Z$ の平均 $\mu$ を出し、$E\left[(S-\mu)^3\right]$ と $E\left[(S-\mu)^4\right]$ を計算します。
$$E\left[(S-\mu)^4\right] = E(S^4) - 4\mu E(S^3) + 6\mu^2 E(S^2) - 4\mu^3 E(S) + \mu^4$$
原点まわりの積率を4次まで出したうえで、この展開を処理することになります。7分では厳しい。
工夫が2つあります。
1つ目は、キュムラントを使うことです。積率母関数の対数を取った関数
$$C_X(t) = \log M_X(t)$$
を $k$ 回微分して $t = 0$ を代入したものを $k$ 次のキュムラントといいます。歪度と尖度は、このキュムラントの比としてそのまま書けます。
$$\text{歪度} = \frac{C^{(3)}(0)}{\left\{C^{(2)}(0)\right\}^{3/2}}, \qquad \text{尖度} = \frac{C^{(4)}(0)}{\left\{C^{(2)}(0)\right\}^{2}} + 3$$
平均のまわりに直す作業が、対数を取った時点で済んでいます。
2つ目は、尺度を落とすことです。歪度と尖度は分布のばらつきの尺度を変えても値が変わりません。$c > 0$ に対して $cX$ の歪度と尖度は $X$ のそれと等しい。だから $\lambda$ を1に固定して計算し、そのまま答えにしてよいことになります。
この2つを組み合わせると、微分する対象が対数関数1つになります。
解法の筋道
まず分布を同定します。平均 $\lambda$ の指数分布は、率で書けば $\Gamma\!\left(1, \frac{1}{\lambda}\right)$ です。3つが独立で第2母数が揃っているので、再生性より
$$S = X + Y + Z \sim \Gamma\!\left(3, \frac{1}{\lambda}\right)$$
次に尺度を落とします。ガンマ分布は $cX \sim \Gamma\!\left(\alpha, \frac{\beta}{c}\right)$ という性質を持ちます。$c = \frac{1}{\lambda}$ を掛ければ
$$W = \frac{1}{\lambda}S \sim \Gamma(3, 1)$$
$S$ と $W$ は尺度が違うだけなので、歪度と尖度は共通です。以降は $W$ で計算します。
$\Gamma(3,1)$ の積率母関数は
$$M_W(t) = \left(\frac{1}{1-t}\right)^{3} \qquad (t < 1)$$
対数を取ります。
$$C_W(t) = \log M_W(t) = -3\log(1-t)$$
ここまで来れば、あとは対数関数の微分を繰り返すだけです。指数関数も多項式も出てきません。
計算
$C_W(t) = -3\log(1-t)$ を順に微分します。
$$C_W^{(1)}(t) = \frac{3}{1-t}, \qquad C_W^{(2)}(t) = \frac{3}{(1-t)^2}, \qquad C_W^{(3)}(t) = \frac{6}{(1-t)^3}, \qquad C_W^{(4)}(t) = \frac{18}{(1-t)^4}$$
$t = 0$ を代入します。
| 次数 | $k$ 次キュムラント |
|---|---|
| 1 | 3 |
| 2 | 3 |
| 3 | 6 |
| 4 | 18 |
歪度は
$$\frac{C_W^{(3)}(0)}{\left\{C_W^{(2)}(0)\right\}^{3/2}} = \frac{6}{3^{3/2}} = \frac{6}{3\sqrt{3}} = \frac{2}{\sqrt{3}}$$
尖度は
$$\frac{C_W^{(4)}(0)}{\left\{C_W^{(2)}(0)\right\}^{2}} + 3 = \frac{18}{9} + 3 = 5$$
答えは歪度が $\dfrac{2}{\sqrt{3}}$、尖度が5です。数値では歪度が1.1547、尖度が5になります。
検算をしておきます。1次と2次のキュムラントは、それぞれ平均と分散に一致します。$\Gamma(3,1)$ の平均は $\alpha/\beta = 3$、分散は $\alpha/\beta^2 = 3$ で、表の値と合っています。ここが合っていれば、対数の微分でつまずいてはいません。
一般化しておくと見通しがよい
$\Gamma(\alpha, 1)$ について同じ計算をすると、$C(t) = -\alpha\log(1-t)$ から
$$C^{(2)}(0) = \alpha, \qquad C^{(3)}(0) = 2\alpha, \qquad C^{(4)}(0) = 6\alpha$$
したがって
$$\text{歪度} = \frac{2\alpha}{\alpha^{3/2}} = \frac{2}{\sqrt{\alpha}}, \qquad \text{尖度} = \frac{6\alpha}{\alpha^2} + 3 = \frac{6}{\alpha} + 3$$
形状母数だけで決まります。第2母数はどちらにも現れません。尺度を変えても値が変わらないことが、式の形からも確認できます。
$\alpha$ を動かすと次のようになります。
| $\alpha$ | 1(指数分布) | 2 | 3 | 4 |
|---|---|---|---|---|
| 歪度 | 2 | $\sqrt{2}$ | $2/\sqrt{3}$ | 1 |
| 尖度 | 9 | 6 | 5 | 4.5 |
$\alpha$ を大きくすると歪度が0に、尖度が3に近づきます。3は正規分布の尖度です。ガンマ分布そのものは $\alpha$ とともに平均も分散も大きくなりますが、中心化して標準偏差で割った $(X - \alpha/\beta)/\sqrt{\alpha/\beta^2}$ の形は正規分布に近づきます。歪度と尖度はこの標準化に影響されない量なので、この数字の動きがその現れです。$\alpha$ が整数なら、指数分布の和に対する中心極限定理を具体例で見ていることになります。
つまずきポイント:尖度に3を足すのか引くのか
尖度には流儀が2つあります。
$$\frac{\mu_4}{\sigma^4} = \frac{C^{(4)}(0)}{\left\{C^{(2)}(0)\right\}^2} + 3 \quad \text{(正規分布で3になる)}$$
$$\frac{\mu_4}{\sigma^4} - 3 = \frac{C^{(4)}(0)}{\left\{C^{(2)}(0)\right\}^2} \quad \text{(正規分布で0になる)}$$
前者を尖度、後者を超過尖度と呼び分けることもありますが、どちらも尖度と呼ばれます。損保数理では後者の流儀が使われることが多く、科目をまたぐと食い違います。
この問題では、問題文が $\dfrac{\mu_4}{\sigma^4}$ と明示しています。したがって3を足すほうです。
$$\text{尖度} = 2 \quad \text{(これは誤り)}$$
$$\text{尖度} = 5 \quad \text{(正しい)}$$
誤ったほうを選ぶと、ちょうど3だけずれます。選択肢のある問題では、3違いの値が両方並んでいることがあるので、当てずっぽうでは当たりません。
判別の方法ははっきりしています。問題文が $\mu_4/\sigma^4$ と書いていれば3を足す。$\mu_4/\sigma^4 - 3$ と書いていれば足さない。名前ではなく式の形に従います。この問題のように、問題文がわざわざ括弧書きで定義を添えてくるのは、そこを揃えるためです。
本試験ではこう問われる
原問は2006年度(H18)問題1(2)です。確率変数の個数が違います。
確率変数 $X$、$Y$ は独立で、共に平均 $\lambda$ の指数分布に従う。このとき $X+Y$ の歪度 $\left(\dfrac{\mu_3}{\sigma^3}\right)$ は $\fbox{1}$、尖度 $\left(\dfrac{\mu_4}{\sigma^4}\right)$ は $\fbox{2}$ である。
2つの和なので $\Gamma(2, 1/\lambda)$ です。一般形に $\alpha = 2$ を入れます。
$$\text{歪度} = \frac{2}{\sqrt{2}} = \sqrt{2}, \qquad \text{尖度} = \frac{6}{2} + 3 = 6$$
選択肢は1、$\sqrt{2}$、2、$2\sqrt{2}$、3、$3\sqrt{2}$、6、$6\sqrt{2}$、24、$24\sqrt{2}$、30、$30\sqrt{2}$ の12個で、公式解答は歪度が $\sqrt{2}$、尖度が6です。
歪度の選択肢に $\sqrt{2}$ と2と $2\sqrt{2}$ が並び、尖度の側に3と6が並んでいます。3を足し忘れれば3に着地し、$\sqrt{\ }$ を落とせば2に着地する。取り違えの方向がそのまま選択肢になっています。
なお、この年度の公式解答は積率母関数を4回微分して原点まわりの積率を出し、そこから平均のまわりの積率に直す道筋を取っています。キュムラントを使う道筋のほうが手数は少なく済みますが、どちらでも同じ答えに着きます。
歪度と尖度そのものが問われた年度は、平成12年度から令和7年度までの26年度のうち2年度です。回数は多くありませんが、キュムラント母関数は積率母関数の周辺として繰り返し顔を出します。分布の同定と再生性を確認したうえで対数を取る、という流れを一度作っておけば、初めて見る形でも動けます。
まとめ
- 平均のまわりの積率を直接作らない。積率母関数の対数を取ったキュムラント母関数を使う。
- 歪度は $C^{(3)}(0)/\left\{C^{(2)}(0)\right\}^{3/2}$、尖度は $C^{(4)}(0)/\left\{C^{(2)}(0)\right\}^{2} + 3$。
- 歪度と尖度は尺度を変えても不変。ガンマ分布なら第2母数を1に落としてから計算できる。
- $\Gamma(\alpha,\beta)$ の歪度は $2/\sqrt{\alpha}$、尖度は $6/\alpha + 3$。形状母数だけで決まる。
- 尖度は3を足す流儀と足さない流儀がある。問題文が $\mu_4/\sigma^4$ と書いていれば足すほう。