問題

出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-1 離散一様分布の問題です。参考類題として H18.1(3) が挙げられています。目標解答時間は7分。

AとBの2人がサイコロを用いた次のようなゲームをする。

  • AとBは、1回のゲームで共にサイコロを投げる。
  • Aは、1回のゲームで3つのサイコロを投げ、出た目の数を獲得点数とする。
  • Bは、1回のゲームで1つのサイコロを投げ、出た目の3倍を獲得点数とする。

このとき、1回のゲームでのA、Bの獲得点数をそれぞれ確率変数 $A$、$B$ とするとき、$X = A - B$ の期待値と分散を求めよ。

まず何に着目するか

Aは「3個のサイコロを足す」、Bは「1個のサイコロを3倍する」。どちらも1個あたりの平均が $7/2$ なので、得点の平均は両方とも $21/2$ になります。

ここが解法選択の分かれ目です。期待値だけを見ていると、この2人はまったく同じに見えます。違いが出るのは分散のほうで、そこでは3を足す形と3を掛ける形が別の扱いを受けます。

$$V(A_1 + A_2 + A_3) = V(A_1) + V(A_2) + V(A_3), \qquad V(3Y) = 3^2 V(Y)$$

独立な和では分散がそのまま足し算になり、定数倍では係数が2乗で効きます。$3$ と $3^2 = 9$、この差が答えの全体を決めます。

だから、この問題を見た瞬間にやることは1つだけです。Aを3つの確率変数の和として書き直し、Bを1つの確率変数の定数倍として書き直す。式の形が決まれば、あとは公式を当てるだけになります。

逆に、Aの得点(3〜18点)の分布を作りにいくと時間が溶けます。$6^3 = 216$ 通りを数えることになるからです。目標解答時間7分は、その道に入らないことを前提にした時間です。

解法の筋道

使う道具は2つです。

離散一様分布 $X \sim DU\{1, 2, \dots, n\}$ の特性値。

$$P(X = k) = \frac{1}{n}, \qquad E(X) = \frac{n+1}{2}, \qquad V(X) = \frac{(n+1)(n-1)}{12}$$

もう1つは、期待値と分散の線形性です。$X_1, \dots, X_n$ に対して定数 $a_1, \dots, a_n, b$ を取ると

$$E\left(\sum a_i X_i + b\right) = \sum a_i E(X_i) + b$$

が常に成り立ち、$X_1, \dots, X_n$ が互いに独立なとき(より一般には、どの2つも無相関なとき)

$$V\left(\sum a_i X_i + b\right) = \sum a_i^2 V(X_i)$$

期待値のほうは独立でなくても成り立ち、分散のほうは無相関(独立なら自動的に満たされます)を要求する。この非対称が、この問題の骨です。

サイコロの目は $DU\{1, 2, \dots, 6\}$ なので、$n = 6$ を入れて

$$E = \frac{6+1}{2} = \frac{7}{2}, \qquad V = \frac{(6+1)(6-1)}{12} = \frac{35}{12}$$

を先に出しておきます。以降はこの2つの数を配るだけです。

計算

Aが投げた3つのサイコロの目を $A_1, A_2, A_3$ とすると、$A = A_1 + A_2 + A_3$ で、3つは互いに独立です。

$$E(A) = 3 \cdot \frac{7}{2} = \frac{21}{2}, \qquad V(A) = 3 \cdot \frac{35}{12} = \frac{35}{4}$$

Bが投げたサイコロの目を $Y$ とすると、$B = 3Y$ です。

$$E(B) = 3 \cdot \frac{7}{2} = \frac{21}{2}, \qquad V(B) = 3^2 \cdot \frac{35}{12} = \frac{105}{4}$$

期待値は一致しました。分散は $35/4$ と $105/4$ で、Bのほうがちょうど3倍です。

$X = A - B$ について、$A$ と $B$ は独立なので

$$E(X) = \frac{21}{2} - \frac{21}{2} = 0$$

$$V(X) = V(A) + V(-B) = V(A) + (-1)^2 V(B) = \frac{35}{4} + \frac{105}{4} = 35$$

答えは $E(X) = 0$、$V(X) = 35$ です。

引き算なのに分散が足し算になるのは、$(-1)^2 = 1$ だからです。差を取るとばらつきは打ち消し合わず、むしろ積み上がります。

手で確かめる

公式を信じきれないときのために、サイコロ2個と2倍の場合で直接検算しておきます。数が小さいので電卓なしで追えます。

まず $B = 2Y$ のほう。取りうる値は $2, 4, 6, 8, 10, 12$ で、それぞれ確率 $1/6$。平均は7です。

2 4 6 8 10 12
平均からの差 $-5$ $-3$ $-1$ $1$ $3$ $5$
差の2乗 25 9 1 1 9 25 70

$V(B) = 70/6 = 35/3$。公式の $2^2 \cdot 35/12 = 35/3$ と一致します。

次に $A = A_1 + A_2$ のほう。2個のサイコロの合計は36通りで、平均は同じく7です。

合計 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
通り 1 2 3 4 5 6 5 4 3 2 1 36
差の2乗 25 16 9 4 1 0 1 4 9 16 25
25 32 27 16 5 0 5 16 27 32 25 210

$V(A) = 210/36 = 35/6$。公式の $2 \cdot 35/12 = 35/6$ と一致します。

そして $35/3$ は $35/6$ のちょうど2倍。2個の場合は2倍差、3個の場合は3倍差になっています。

一般化しておくと見通しがよい

サイコロを $k$ 個投げて合計する側と、1個を $k$ 倍する側を比べます。1個あたりの分散を $\sigma^2$ と書くと

$$V(A) = k \sigma^2, \qquad V(B) = k^2 \sigma^2, \qquad \frac{V(B)}{V(A)} = k$$

$$V(X) = V(A) + V(B) = k(k+1)\sigma^2$$

$k = 3$、$\sigma^2 = 35/12$ を入れれば $3 \cdot 4 \cdot 35/12 = 35$ で、さきほどの答えに戻ります。$k = 2$ なら $2 \cdot 3 \cdot 35/12 = 35/2$ です。

$k$ 倍する側が常に $k$ 倍ばらつく。この一行を持っておくと、数字が変わった同型の問題に出会っても計算をやり直さずに済みます。

つまずきポイント:$V(3Y)$ を $3V(Y)$ と書いてしまう

分散の定数倍で係数を2乗し忘れる誤りです。

$$V(3Y) = 3V(Y) = \frac{35}{4} \quad \text{(これは誤り)}$$

$$V(3Y) = 3^2 V(Y) = \frac{105}{4} \quad \text{(正しい)}$$

この誤りを犯すと $V(A) = V(B)$ になり、「AとBは完全に同じゲームをしている」という結論に着地します。答えは $V(X) = 35/2$ となって、正解のちょうど半分です。

なぜ2乗なのかは、定義に戻れば1行で分かります。

$$V(aY) = E\left[(aY - aE(Y))^2\right] = E\left[a^2(Y - E(Y))^2\right] = a^2 V(Y)$$

括弧の中に $a$ があり、それが2乗されるから外に $a^2$ が出る。標準偏差なら $|a|$ 倍で済むのに分散だと $a^2$ 倍になるのは、分散が2乗の単位を持つ量だからです。

覚え方としては、分散は「点数の2乗」の単位を持つと考えるのが確実です。得点を3倍すれば単位も3倍の2乗、つまり9倍になります。

本試験ではこう問われる

この骨格は、期待値と分散を出したところで終わりません。本試験では中心極限定理と組み合わされ、「差の平均がある幅に収まる確率を95%以上にするには、最低何回ゲームを行えばよいか」を問う形になります。

タクティクスの類題と原問には違いがあります。原問(2006年度・H18)はサイコロの個数と倍率がどちらも2で、しかも中心極限定理まで続きます。

AとBの2人がサイコロを用いた次のようなゲームをする。

  • AとBは1回のゲームで共にサイコロを投げる。
  • Aは、1回のゲームで2つのサイコロを投げ、出た目の合計を獲得点数とする。
  • Bは、1回のゲームで1つのサイコロを投げ、出た目の2倍を獲得点数とする。

中心極限定理を用いた場合、Aの獲得点数とBの獲得点数との差の平均が 0.4 以下となる確率が 0.95 以上となるためには、最低◻回ゲームを行わなければならない。

類題の3個・3倍を2個・2倍に読み替えるだけなので、この記事で出した一般形が使えます。$k = 2$ で $V(X) = 2 \cdot 3 \cdot 35/12 = 35/2$。$n$ 回の平均 $\bar{X}$ は分散 $35/(2n)$ になるので、

$$\frac{0.4}{\sqrt{35/(2n)}} \geq 1.96 \quad \Longrightarrow \quad n \geq 420.175$$

なお「差の平均が0.4以下」は、差の平均の絶対値が0.4以内、つまり両側で読みます。だから両側95%の1.96を使います。片側で読んで1.645を使うと296回になりますが、公式解答は421回で、両側の読みと整合します。

最低421回で、公式解答も (B) の421です。

同じ骨格は繰り返し使われています。平成12年度以降の数学で、この形が出たのは3年度あります。

出題 Aの側 Bの側 問われ方
2006年度(H18)1(3) サイコロ2個の合計 サイコロ1個の2倍 差の平均が0.4以下となる確率を0.95以上にする最低回数
2017年度(H29)1(4) 壺の球で決まる回数だけ投げた合計 サイコロ1個の2倍 同上(0.7点以下・95%以上)
2021年度 1(5) カードを復元抽出で3回引いた合計 カード1枚の3倍 同上(0.5以下・95%以上)。チェビシェフの不等式との対比つき

2017年度は、Aが投げるサイコロの個数そのものが確率変数になっています。壺から1・2・3の球を引き、その番号の回数だけ投げる。分散の計算は $E(a^2)$ を経由する形に変わりますが、そのあとの中心極限定理の使い方は同じです。

2021年度はサイコロがカードに変わっただけで、構造はこの記事の問題とそのまま同じです。$DU\{1,\dots,5\}$ なので $\sigma^2 = (25-1)/12 = 2$、$V(X) = 3 \cdot 4 \cdot 2 = 24$。ここまで来れば

$$\frac{0.5}{\sqrt{24/n}} \geq 1.96 \quad \Longrightarrow \quad n \geq 368.79$$

で369回です。同じ問題ではチェビシェフの不等式による評価も問われていて、そちらは1,920回になります。分布の形を使わない評価がどれだけ緩いかを、同じ設定で見比べさせる作りです。

覚えるべきは数字ではなく、和と定数倍でばらつきの増え方が変わるという一点です。そこさえ握っていれば、サイコロがカードに変わっても、個数が確率変数になっても、入り口は同じです。

まとめ

  • Aの「3個を足す」とBの「1個を3倍する」は、期待値では区別がつかない。どちらも $21/2$。
  • 独立な和の分散は係数がそのまま、定数倍の分散は係数の2乗。$3$ と $9$ の差が答えを決める。
  • $X = A - B$ の分散は引き算でも足し算になる。$(-1)^2 = 1$ だから打ち消し合わない。
  • $k$ 個の合計と $k$ 倍を比べると、分散比は常に $k$、差の分散は $k(k+1)\sigma^2$。
  • 本試験ではここから中心極限定理に接続し、最低ゲーム回数を問う形になる(2006年度・2017年度・2021年度)。