問題

出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第2章 連続型分布、2-5 一様分布の問題です。参考類題として H18.1(5) が挙げられています。目標解答時間は10分。

点 $O$ を中心とする半径 $r$ の円周上に3点 $A, B, C$ をとったときの $\triangle ABC$ の面積 $s$ は、

$$s = \frac{r^2}{2}\left(\sin \angle AOB + \sin \angle BOC + \sin \angle COA\right)$$

で与えられることが分かっている(ここでの3つの角は、円周を $A \to B \to C \to A$ と一方向に回るときの各弧に対する中心角で、合計は $2\pi$。$\pi$ を超えることもある)。このことを用いて、半径 $r$ の円周上の3点 $A, B, C$ を無作為にとったときの $\triangle ABC$ の面積を確率変数 $S$ とするとき、$E(S)$ を求めよ。

まず何に着目するか

面積の式が与えられているので、幾何の問題ではなく確率の問題として扱えます。やることは、右辺の3つの正弦の期待値を求めることです。

$$E(S) = \frac{r^2}{2}\left\{E(\sin \angle AOB) + E(\sin \angle BOC) + E(\sin \angle COA)\right\}$$

期待値は線形なので、和のまま分けられます。ここまでは機械的です。

着目すべき点が3つあります。

1つ目。半径 $r$ は $r^2$ という因子として外に出るだけです。$r = 1$ で計算して最後に $r^2$ を掛ければよく、以降 $r$ を持ち歩く必要はありません。

2つ目。3点のうち1点は固定してよい。円は回転対称なので、$A$ を円周上のどこか一点に固定しても分布は変わりません。固定すれば、動く点は $B$ と $C$ の2つだけになります。

3つ目、これが要点です。3つの中心角は互いに同じ分布に従います。円周を3点で切ったときにできる3つの弧は、どれが大きいかに区別がありません。だから

$$E(\sin \angle AOB) = E(\sin \angle BOC) = E(\sin \angle COA)$$

1つ計算して3倍すれば済みます。計算量が3分の1になります。

逆に、3つを別々に積分しにいくと、同じ形の計算を3回繰り返すことになります。目標解答時間10分は、対称性に気づくことを前提にした時間です。

解法の筋道

$A$ を固定し、$B$ と $C$ の位置を $A$ から測った角度で表します。円周を1周 $2\pi$ とすると、2つの角度は $U(0, 2\pi)$ に独立に従います。

このままだと $B$ と $C$ のどちらが先かで場合分けが要るので、小さい方を $X$、大きい方を $Y$ と置き直します。順序統計量です。2個の値を並べ替えたときの同時密度は、もとの同時密度を2倍したものになります。

$$f_{X,Y}(x,y) = 2 \cdot \left(\frac{1}{2\pi}\right)^2 = \frac{1}{2\pi^2}, \qquad 0 < x < y < 2\pi$$

2倍するのは、$(B,C)$ と $(C,B)$ の2通りが同じ $(X,Y)$ に対応するからです。

3つの中心角は次のように書けます。

$$\angle AOB = X, \qquad \angle BOC = Y - X, \qquad \angle COA = 2\pi - Y$$

3つを足すと $2\pi$ になり、円を一周します。

半径1として、面積は

$$S' = \frac{1}{2}\left\{\sin X + \sin(Y - X) + \sin(2\pi - Y)\right\}$$

$\sin(2\pi - Y) = -\sin Y$ なので、3つ目の項は $-\sin Y$ と書けます。

方針が決まりました。この同時密度で3つの期待値を出し、足して2で割り、最後に $r^2$ を掛ける。

計算

両辺を2倍して整理します。

$$2E(S') = E(\sin X) + E\left[\sin(Y-X)\right] - E(\sin Y)$$

3つとも同じ同時密度で積分します。まず全体に $2\pi^2$ を掛けた形で進めます。

$$4\pi^2 E(S') = \int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{y} \sin x \,dx\,dy + \int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{y} \sin(y-x)\,dx\,dy - \int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{y} \sin y \,dx\,dy$$

内側の積分をそれぞれ実行します。

$$\int_0^y \sin x\, dx = \left[-\cos x\right]_0^y = 1 - \cos y$$

$$\int_0^y \sin(y-x)\, dx = \left[\cos(y-x)\right]_0^y = 1 - \cos y$$

$$\int_0^y \sin y\, dx = y \sin y$$

前の2つが同じ値になりました。対称性が式の上に現れています。

$$4\pi^2 E(S') = 2\int_0^{2\pi}(1 - \cos y)\,dy - \int_0^{2\pi} y \sin y\, dy$$

第1項は

$$2\left[y - \sin y\right]_0^{2\pi} = 2 \cdot 2\pi = 4\pi$$

第2項は部分積分です。

$$\int_0^{2\pi} y \sin y\, dy = \left[-y\cos y + \sin y\right]_0^{2\pi} = -2\pi$$

したがって

$$4\pi^2 E(S') = 4\pi - (-2\pi) = 6\pi$$

$$E(S') = \frac{6\pi}{4\pi^2} = \frac{3}{2\pi}$$

半径 $r$ に戻します。

$$E(S) = r^2 E(S') = \frac{3r^2}{2\pi}$$

答えは $\dfrac{3r^2}{2\pi}$ です。

値を確かめる

$r = 1$ のとき $E(S) = \dfrac{3}{2\pi} = 0.4775$ です。

比べる対象を用意します。半径1の円に内接する正三角形の面積は $\dfrac{3\sqrt{3}}{4} = 1.2990$。円の面積は $\pi = 3.1416$ です。

図形 面積
3.1416
内接する正三角形 1.2990
無作為な3点の三角形の期待値 0.4775

期待値は、正三角形の面積の37%ほどにしかなりません。無作為に3点を取ると、2点が近づいて細長い三角形になることが多いからです。正三角形は3点が最も離れた特別な配置であり、平均からは遠い。

この比較は検算にも使えます。答えが $1.2990$ を超えていたら、どこかで間違えています。三角形の面積が正三角形を超えることはないので、期待値もそれ以下でなければなりません。

別解:中心角を順序統計量で書く

もう1つの道筋も見ておきます。角度を $2\pi$ で割って、区間 $(0,1)$ の話にします。

$U(0,1)$ に独立に従う2個の確率変数のうち、小さい方を $U$、大きい方を $V$ とすると、順序統計量とベータ分布の対応から

$$U \sim Beta(1,2), \qquad V \sim Beta(2,1)$$

3つの中心角は

$$\angle AOB = 2\pi U, \qquad \angle BOC = 2\pi(V - U), \qquad \angle COA = 2\pi(1 - V)$$

ここで、$V - U$ と $1 - V$ も $U$ と同じ $Beta(1,2)$ に従います。区間を2点で3つに切ったとき、3つの断片の長さは同じ分布に従うからです。

$1 - V$ については、変数変換で確かめられます。$T = 1 - V$ と置くと

$$f_T(t) = f_V(1-t)\cdot|{-1}| = 2(1-t), \qquad 0 < t < 1$$

これは $Beta(1,2)$ の密度そのものです。

3つが同分布と分かれば、1つ計算して3倍します。

$$E(S) = \frac{3r^2}{2}\, E\left[\sin(2\pi U)\right] = \frac{3r^2}{2}\int_0^1 \sin(2\pi t)\cdot 2(1-t)\, dt$$

$u = 2\pi t$ と置換して

$$= \frac{3r^2}{2\pi}\int_0^{2\pi}\left(1 - \frac{u}{2\pi}\right)\sin u\, du = \frac{3r^2}{2\pi}\left[\left(1-\frac{u}{2\pi}\right)(-\cos u) - \frac{1}{2\pi}\sin u\right]_0^{2\pi} = \frac{3r^2}{2\pi}$$

同じ答えになりました。

こちらの道筋のほうが、対称性が式の上ではっきりします。二重積分を書かずに済むぶん見通しもよい。ただし、3つの断片が同分布であることを言うために変数変換を1回挟む必要があります。

つまずきポイント:1点を固定してよい理由を飛ばす

$A$ を $(1,0)$ に固定する、という操作に引っかかることがあります。3点とも無作為なのに、1点だけ位置を決めてよいのか。

よい理由は、円の回転対称性です。3点の配置を回転させても三角形の形は変わらず、面積も変わりません。だから「$A$ がどこにあるか」は面積の分布に影響しません。$A$ の位置で条件付けても分布が変わらないので、固定して構いません。

$$\text{3点とも動かして積分する} \quad \text{(3重積分になり、計算が重い)}$$

$$\text{1点を固定して2点で積分する} \quad \text{(2重積分で済む)}$$

固定しないと3重積分になりますが、答えは同じです。1つ余分に積分しても、回転方向の自由度が $2\pi$ を掛けて $2\pi$ で割るだけで打ち消し合うからです。

もう1つの落とし穴が、$\sin(2\pi - Y)$ の符号です。

$$\sin(2\pi - Y) = \sin Y \quad \text{(これは誤り)}$$

$$\sin(2\pi - Y) = -\sin Y \quad \text{(正しい)}$$

$\sin$ は $2\pi$ 周期ですが、$2\pi - Y$ は $-Y$ と同じなので符号が反転します。ここを間違えると第3項の符号が変わり、$4\pi^2 E(S') = 4\pi + (-2\pi) = 2\pi$ となって $E(S) = \dfrac{r^2}{2\pi}$ という誤答に着地します。正三角形との比較で明らかにおかしい値ではないので、検算では気づきにくい誤りです。

なお、面積の式が3つの正弦の和になるのは、中心角のどれかが $\pi$ を超えると対応する三角形が円の中心を含まなくなるためです。そのとき正弦が負になり、自動的に引き算として効きます。場合分けが要らないのはこの符号のおかげです。

本試験ではこう問われる

原問は2006年度(H18)問題1(5)です。半径が1に固定されています。

半径1の円周上に3点 $A$、$B$、$C$ を無作為にとる。このとき、3点を結んでできる三角形の面積の期待値は $\fbox{ }$ である。

選択肢は $\dfrac{3}{2\pi}$、$\dfrac{5}{3\pi}$、$\dfrac{2}{\pi}$、$\dfrac{5}{2\pi}$、$\dfrac{\pi}{8}$、$\dfrac{\pi}{6}$、$\dfrac{\pi}{5}$、$\dfrac{\pi}{4}$ の8個で、公式解答は $\dfrac{3}{2\pi}$ です。

前半4つが円周率を分母に持ち、後半4つが分子に持っています。数の感覚で検算するなら、半径1の内接三角形の面積は最大でも正三角形の $3\sqrt{3}/4 \fallingdotseq 1.30$。どの候補もこれは下回るので上限だけでは絞れませんが、無作為な3点はつぶれた三角形になることも多いので、平均は最大値よりだいぶ小さいはずです。計算結果の $3/(2\pi) = 0.478$ が最大値の4割弱に収まるのは、その感覚と合っています。

なお、公式解答は3点すべてを動かす道筋も補足として載せており、区間 $[0, 2\pi)$ から3点を選んで小さい順に並べる形でも同じ結果が得られることを確かめています。1点を固定してよいことの裏取りになっています。

同じ2006年度の問題1(4)は3つの一様分布の和の密度を、問題1(2)は指数分布の和の歪度と尖度を扱っています。一様分布と指数分布を軸に、和や変換を1問ずつ切り分ける構成でした。

一様分布を使って図形の量を確率変数に翻訳する問題は、タクティクスの 2-5 に8問収録されています。三角形の面積、待ち時間、直角三角形の内部の点。設定は毎回違いますが、やることは「無作為に取る量を一様分布として置き、求める量をその関数として書く」という一手に集約されます。

まとめ

  • 面積の式が与えられているので、3つの正弦の期待値を求める問題に翻訳できる。
  • 円の回転対称性から1点を固定してよい。動く点は2つになり、二重積分で済む。
  • 3つの中心角は同分布。1つ計算して3倍すれば終わる。
  • 答えは $3r^2/(2\pi)$。半径1で0.4775、内接する正三角形1.2990の37%ほど。
  • $\sin(2\pi - Y) = -\sin Y$ の符号に注意。取り違えると値が3分の1になる。