問題

出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第2章 連続型分布、2-2 指数分布の問題です。参考類題として H19.2 が挙げられています。目標解答時間は10分。

同種の機器が数個ある。各機器の寿命は互いに独立に同一の指数分布に従い、その平均は以下の(1)では $\dfrac{100}{3}$ か月、(2)では1か月とする場合を考える。

(1) この機器を1個だけ使用するときを考える。この機器の販売者は、機器の保証期間を $\fbox{1}$ か月とすれば、この機器の寿命が保証期間を超える確率を $0.9$ とすることができる。また、保証期間を $\fbox{1}$ か月とすれば、この機器の寿命が保証期間を超えたことを条件として、寿命が使用開始から保証期間の2倍の期間を超える確率は $\fbox{2}$ である。なお、$e^{-0.105} = 0.9$ として計算せよ。

(2) この機器を10個同時に使用するときを考える。最初に寿命を迎える機器から1番めとして数え、順に $k$ 番めに寿命を迎える機器の寿命を確率変数 $T_{(k)}, \ k = 1, 2, \dots, 10$ とおく。$f_{T_{(1)}}(t)$ および $f_{T_{(10)}}(t)$ をそれぞれ求めよ。また、$E\left(T_{(3)}\right)$ を求めよ。

まず何に着目するか

小問が3つ並んでいますが、貫いているのは無記憶性1つです。

(1)の後半は、無記憶性がそのまま答えになります。保証期間を超えたという条件のもとで、さらに同じ長さだけ持つ確率。指数分布では、すでに使った時間は忘れられるので、答えは最初の $0.9$ と同じです。計算するまでもありません。

(2)の $E\left(T_{(3)}\right)$ が本題です。ここで道が2つに分かれます。

1つは順序統計量の密度関数を作る道です。10個のうち3番目に小さい値の密度は

$$f_{T_{(3)}}(t) = \frac{10!}{2!\,1!\,7!} \left\{F(t)\right\}^{2} f(t) \left\{1 - F(t)\right\}^{7}$$

これを $0$ から $\infty$ まで $t$ を掛けて積分することになります。$\left(1 - e^{-t}\right)^2$ を展開して項別に積分すれば出ますが、10分の中では割に合いません。

もう1つが無記憶性を使う道です。3個目が壊れるまでの時間を、区間ごとに切って足します。

$$T_{(3)} = T_{(1)} + \left(T_{(2)} - T_{(1)}\right) + \left(T_{(3)} - T_{(2)}\right)$$

期待値は線形なので、3つの区間の期待値を足せば済みます。そして各区間の分布は、無記憶性のおかげで簡単な形になります。

着目点は「何個か壊れた時点で、残っている機器はどういう状態か」という一点です。無記憶性により、使い古された機器も新品と同じ。だから区間の切り替わりごとに、その時点を新たな出発点と見なしてよいことになります。

解法の筋道

指数分布の性質を並べておきます。$\beta > 0$ として

$$f_X(x) = \beta e^{-\beta x}, \qquad F_X(x) = 1 - e^{-\beta x}, \qquad P(X > x) = e^{-\beta x}$$

$$E(X) = \frac{1}{\beta}, \qquad V(X) = \frac{1}{\beta^2}$$

裾の確率 $P(X > x) = e^{-\beta x}$ が扱いやすいので、この形で持っておきます。無記憶性は

$$P(X > s + t \mid X > s) = P(X > t)$$

最小値と最大値の分布は、独立同分布の $X_1, \dots, X_n$ に対して

$$F_{X_{(1)}}(x) = 1 - \left\{1 - F(x)\right\}^n, \qquad F_{X_{(n)}}(x) = \left\{F(x)\right\}^n$$

最小値のほうは「全部が $x$ より大きい」の余事象、最大値のほうは「全部が $x$ 以下」。どちらも定義から1行で出ます。

指数分布の場合、最小値には特別な性質があります。$X_1, \dots, X_n$ がいずれも率 $\beta$ の指数分布に従うなら

$$P\left(X_{(1)} > x\right) = \left(e^{-\beta x}\right)^n = e^{-n\beta x}$$

最小値もまた指数分布で、率は $n\beta$。個数だけ壊れやすくなる、という素直な結果です。

ここに無記憶性を重ねます。$i$ 個を同時に使っているどの時点においても、そのうちどれか1個が次に壊れるまでの時間は率 $i\beta$ の指数分布に従う。すでに経過した時間は効きません。方針が立ちました。

計算

(1) 平均が $\dfrac{100}{3}$ か月なので $\beta = \dfrac{3}{100} = 0.03$。裾の確率は

$$P(T > x) = e^{-0.03x}$$

保証期間を $y$ か月として、これを超える確率が $0.9$ になる条件は

$$e^{-0.03y} = 0.9$$

$e^{-0.105} = 0.9$ と与えられているので、指数を見比べて $0.03y = 0.105$、すなわち

$$y = 3.5$$

空欄1の答えは3.5か月です。

後半は、条件付き確率 $P(T > 7 \mid T > 3.5)$。無記憶性より

$$P(T > 3.5 + 3.5 \mid T > 3.5) = P(T > 3.5) = 0.9$$

空欄2の答えは $0.9$。計算していません。

(2) 平均1か月なので $\beta = 1$。

最小値は率 $10$ の指数分布なので

$$f_{T_{(1)}}(t) = 10 e^{-10t}, \qquad 0 < t < \infty$$

最大値は分布関数から作ります。$F(t) = 1 - e^{-t}$ なので

$$F_{T_{(10)}}(t) = \left(1 - e^{-t}\right)^{10}$$

微分して

$$f_{T_{(10)}}(t) = 10 e^{-t} \left(1 - e^{-t}\right)^{9}, \qquad 0 < t < \infty$$

$E\left(T_{(3)}\right)$ を求めます。区間に分けます。

$$E\left(T_{(3)}\right) = E\left(T_{(1)}\right) + E\left(T_{(2)} - T_{(1)}\right) + E\left(T_{(3)} - T_{(2)}\right)$$

各区間の分布を書きます。最初の区間では10個が動いているので率は10。1個壊れたあとは9個なので率は9。2個壊れたあとは8個で率は8。

区間 動いている個数 期待値
$T_{(1)}$ 10 10 $1/10$
$T_{(2)} - T_{(1)}$ 9 9 $1/9$
$T_{(3)} - T_{(2)}$ 8 8 $1/8$

したがって

$$E\left(T_{(3)}\right) = \frac{1}{10} + \frac{1}{9} + \frac{1}{8} = \frac{36 + 40 + 45}{360} = \frac{121}{360} \fallingdotseq 0.3361$$

積分は一度も出てきませんでした。

区間が進むほど期待値が大きくなっている点に意味があります。動いている機器が減るぶん、次の故障までの待ち時間が延びる。$1/10 < 1/9 < 1/8$ という並びが、そのまま現象を表しています。

つまずきポイント:使い古された機器のほうが壊れやすい、と考えてしまう

無記憶性が直感に反するのはここです。

2個が壊れた時点で、残る8個はすでに $T_{(2)}$ か月ぶん使われています。にもかかわらず、この8個は新品8個とまったく同じように扱われます。

$$P\left(T > s + t \mid T > s\right) = P(T > t)$$

左辺は「$s$ だけ使った機器が、さらに $t$ 持つ確率」、右辺は「新品が $t$ 持つ確率」。両者が等しい。摩耗も劣化も、このモデルには入っていません。

$$E\left(T_{(3)} - T_{(2)}\right) < \frac{1}{8} \quad \text{(これは誤り)}$$

$$E\left(T_{(3)} - T_{(2)}\right) = \frac{1}{8} \quad \text{(正しい)}$$

待ち時間が延びるのは、機器が古くなったからではなく、動いている台数が減ったからです。原因を取り違えると、区間ごとの率を間違えます。

現実の機器は摩耗するので、指数分布はモデルとして粗い面があります。故障率が時間とともに変わる状況を扱いたければ、ワイブル分布のように形状母数を持つ分布に移ります。指数分布は、その形状母数が1に固定された場合にあたります。試験で指数分布と指定されたら、摩耗は考えないという合図です。

本試験ではこう問われる

原問は2007年度(H19)問題2です。設定は同じで、数値と最後の問いが違います。

同種の機械が $n$ 機あり、各機械の稼働期間は互いに独立かつ同一の確率密度関数 $f(t) = \alpha e^{-\alpha t}$($t > 0$、$\alpha$ は正の定数)に従うものとする。(1)では $\alpha = 0.02$、(2)では $\alpha = 1$ とする。

(1) この機械を新品の状態から1機だけ稼働させる場合を考える。稼働期間の単位を月数とした場合、この機械の生産者は、機械の保証期間を $\fbox{1}$ か月とすれば、この機械が保証期間を超えて稼働する確率を80%とすることができる。また、保証期間を $\fbox{1}$ か月とした場合、この機械が保証期間を超えて稼働したという条件のもとで、稼働開始から保証期間の2倍の期間を超えて稼働する確率は $\fbox{2}$ %である。なお、$e^{-0.22} = 0.8$ とする。

(2) $n$ 機のうち、最初にある機械が完全に稼働を停止するまでの期間を確率変数 $X_n$、すべての機械が完全に稼働を停止するまでの期間を確率変数 $Y_n$ で表すとき、$X_n$ の確率密度関数 $g(t)$ および $Y_n$ の確率密度関数 $h(t)$ を求めよ。また $E(X_n)$、$E(Y_n)$ を求めよ。

$\alpha = 0.02$ なので平均は50か月。保証期間は $0.02y = 0.22$ から $y = 11$ か月、条件付き確率は無記憶性より80%です。数値が変わっても手順は動きません。

(2)は個数を $n$ のまま扱わせ、しかも3個目ではなく最後の1個までを聞いています。

$$g(t) = n e^{-nt}, \qquad h(t) = n e^{-t}\left(1 - e^{-t}\right)^{n-1}, \qquad E(X_n) = \frac{1}{n}$$

$E(Y_n)$ は、この記事で使った区間分割をそのまま最後まで続けます。$j$ 番目の区間では $n - j + 1$ 機が動いているので

$$E(Y_n) = \sum_{j=1}^{n} \frac{1}{n - j + 1} = \frac{1}{n} + \frac{1}{n-1} + \cdots + \frac{1}{1} = \sum_{k=1}^{n} \frac{1}{k}$$

調和数が出てきます。$n = 10$ なら $2.9290$。1個目が壊れるまでは平均0.1か月なのに、全部が壊れるまでには平均2.93か月かかる。最後の1機を待つ時間が全体を支配していることが、和の最後の項 $1/1$ から読み取れます。

類題が $E\left(T_{(3)}\right)$ で止めているのは、区間分割の考え方を3項で確認させるためです。原問はそれを $n$ 項まで一般化させる。どちらも同じ一手で、和をどこで止めるかだけの違いです。

順序統計量そのものは第10章で正面から扱われますが、指数分布の場合に限っては、この記事の分割で多くが片づきます。密度関数を組み立てて積分する前に、無記憶性で切れないかを疑うのが先です。

まとめ

  • 指数分布の無記憶性により、保証期間を超えた機器は新品と同じ。条件付き確率は計算せず答えられる。
  • 率 $\beta$ の指数分布 $n$ 個の最小値は、率 $n\beta$ の指数分布。個数だけ壊れやすくなる。
  • $k$ 番目の故障までの時間は、区間に分けて期待値を足す。$i$ 個動いていれば率は $i\beta$。
  • $E\left(T_{(3)}\right) = 1/10 + 1/9 + 1/8 = 121/360$。積分は使わない。
  • 原問(2007年度)は最後の1機までを聞き、答えは調和数 $\sum_{k=1}^{n} 1/k$ になる。