問題
出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-4 幾何分布・ファーストサクセス分布の問題です。参考類題として H23.1(3) が挙げられています。目標解答時間は7分。
互いに独立な離散的確率変数 $X, Y$ の確率分布をそれぞれ、
$$P(X = x) = \frac{1}{3} \cdot \left(\frac{2}{3}\right)^{x-1} \quad (x = 1, 2, \dots)$$
$$P(Y = y) = \frac{1}{4} \cdot \left(\frac{3}{4}\right)^{y-1} \quad (y = 1, 2, \dots)$$
とする。このとき、確率変数 $3X + 4Y + 1$ の積率母関数 $M(t)$ を求めよ。また、$M(t)$ が存在するための条件を $t$ の不等式で表わせ。
まず何に着目するか
$3X + 4Y + 1$ という形を見て、この確率変数の分布を求めようとすると行き詰まります。$3X$ は3の倍数しか取らず、$4Y$ は4の倍数しか取らない。その和に1を足したものの確率関数は、畳み込みで作れなくはありませんが、7分では終わりません。
積率母関数を聞かれているのだから、分布を経由する必要はありません。定義に戻ります。
$$M(t) = E\left[e^{t(3X + 4Y + 1)}\right] = E\left[e^{3tX} \cdot e^{4tY} \cdot e^{t}\right]$$
$e^t$ は定数なので期待値の外に出ます。$X$ と $Y$ は独立なので、残りは積に分かれます。
$$M(t) = e^{t} \, E\left[e^{3tX}\right] E\left[e^{4tY}\right] = e^{t} M_X(3t) M_Y(4t)$$
ここが解法の全体です。$M_X$ の引数に $3t$ を入れる、それだけ。
着目すべき点をもう1つ。この問題は「$M(t)$ が存在するための条件」も聞いています。積率母関数は無限級数の和なので、収束しない $t$ があります。この但し書きを落とすと減点対象になります。
解法の筋道
まず分布を同定します。$P(X = x) = \dfrac{1}{3} \left(\dfrac{2}{3}\right)^{x-1}$ は、$x$ が1から始まっています。「初めて成功するまでの試行回数」を数える形なので、ファーストサクセス分布 $Fs(1/3)$ です。同様に $Y \sim Fs(1/4)$。
ファーストサクセス分布 $Fs(p)$ の確率関数と積率母関数は、$q = 1 - p$ として
$$P(X = k) = p q^{k-1} \quad (k = 1, 2, \dots), \qquad M_X(t) = \frac{p e^t}{1 - q e^t} \quad \left(e^t < \frac{1}{q}\right)$$
積率母関数は等比級数の和として出ます。
$$M_X(t) = \sum_{k=1}^{\infty} e^{tk} p q^{k-1} = p e^t \sum_{k=1}^{\infty} \left(q e^t\right)^{k-1} = \frac{p e^t}{1 - q e^t}$$
公比が $q e^t$ の等比級数なので、収束するのは $q e^t < 1$ のときだけです。存在条件はここから出ます。公式を暗記していなくても、等比級数の和だと分かれば導けます。
次に、線形変換の規則を1つだけ押さえます。定数 $a, b$ に対して
$$M_{aX + b}(t) = E\left[e^{t(aX+b)}\right] = e^{bt} E\left[e^{(at)X}\right] = e^{bt} M_X(at)$$
定数倍は引数に入り、定数の足し算は $e^{bt}$ という因子として外に出る。この2つだけです。
計算
$X \sim Fs(1/3)$ なので $p = 1/3$、$q = 2/3$。
$$M_X(t) = \frac{\frac{1}{3} e^t}{1 - \frac{2}{3} e^t} = \frac{e^t}{3 - 2e^t}$$
分母分子に3を掛けて整理しました。$Y \sim Fs(1/4)$ なので $p = 1/4$、$q = 3/4$。
$$M_Y(t) = \frac{\frac{1}{4} e^t}{1 - \frac{3}{4} e^t} = \frac{e^t}{4 - 3e^t}$$
$S = 3X + 4Y + 1$ とおきます。
$$M(t) = e^{t} M_X(3t) M_Y(4t) = e^{t} \cdot \frac{e^{3t}}{3 - 2e^{3t}} \cdot \frac{e^{4t}}{4 - 3e^{4t}}$$
分子の $e$ の肩を足して
$$M(t) = \frac{e^{8t}}{\left(3 - 2e^{3t}\right)\left(4 - 3e^{4t}\right)}$$
肩の8は $1 + 3 + 4$ です。定数項の1、$3X$ の3、$4Y$ の4がそのまま足されています。
存在条件を求めます。2つの分母がともに正である必要があります。
$$3 - 2e^{3t} > 0 \ \Longleftrightarrow \ t < \frac{1}{3}\log\frac{3}{2} = 0.1352$$
$$4 - 3e^{4t} > 0 \ \Longleftrightarrow \ t < \frac{1}{4}\log\frac{4}{3} = 0.0719$$
両方を満たす必要があるので、厳しいほうを取ります。
$$t < \frac{1}{4}\log\frac{4}{3}$$
答えは $M(t) = \dfrac{e^{8t}}{(3 - 2e^{3t})(4 - 3e^{4t})}$、存在条件は $t < \dfrac{1}{4}\log\dfrac{4}{3}$ です。
検算しておきます。$t = 0$ を入れると $M(0) = \dfrac{1}{(3-2)(4-3)} = 1$。積率母関数は必ず $M(0) = 1$ を満たすので、係数の取り違えの多くはここで引っかかります(ただし $M(0) = 1$ は必要条件の確認であって、これだけで式全体の正しさが保証されるわけではありません)。
つまずきポイント:$M_{3X}(t)$ を $\{M_X(t)\}^3$ と書いてしまう
$3X$ と $X_1 + X_2 + X_3$ は別物です。
$$M_{3X}(t) = \{M_X(t)\}^3 \quad \text{(これは誤り)}$$
$$M_{3X}(t) = M_X(3t) \quad \text{(正しい)}$$
$\{M_X(t)\}^3$ になるのは、$X_1, X_2, X_3$ が独立で同分布のときの和 $X_1 + X_2 + X_3$ のほうです。同じ確率変数を3倍したものとは、まったく違う分布になります。
この違いは分散を見れば一目です。$V(3X) = 9V(X)$ に対して $V(X_1+X_2+X_3) = 3V(X)$。定数倍のほうが3倍ばらつきます。1個のサイコロの目を3倍するのと、3個のサイコロの目を足すのが違うのと同じことです。
誤ったほうで計算すると
$$\{M_X(t)\}^3 = \frac{e^{3t}}{(3 - 2e^t)^3}$$
となり、分母の $e$ の肩が $t$ のままです。正しい $M_X(3t) = \dfrac{e^{3t}}{3 - 2e^{3t}}$ では肩が $3t$ になっている。分子だけ見ると同じ $e^{3t}$ なので、分母の肩を見落とすと気づけません。
見分け方は決まっています。$e$ の肩に $t$ が裸で残っていたら、引数への代入を忘れています。$M_X(3t)$ と書いたら、$M_X$ の式に現れる $t$ を1つ残らず $3t$ に置き換える。機械的にそうすれば間違えません。
存在条件は、厳しいほうだけが残る
答えの半分は存在条件です。2つの条件を「かつ」で併記しても数学的には正しいのですが、共通範囲を1本の不等式に整理して初めて答えの形になります。
2つの条件は $t < 0.1352$ と $t < 0.0719$。両方を同時に満たす $t$ の範囲は、小さいほうで切られます。
$$t < \frac{1}{4}\log\frac{4}{3}$$
この2つのように係数が同じ形なら、どちらが厳しいかは $q$ の大きい側で決まります。$Fs(p)$ の積率母関数は $qe^t < 1$ で収束するので、$q$ が大きい、すなわち成功しにくい分布のほうが早く発散します。ここでは $Y$ の $q = 3/4$ が $X$ の $q = 2/3$ より大きいので、$Y$ 側が効きます。
さらに、$Y$ には4が掛かっています。$M_Y(4t)$ の収束条件は $q e^{4t} < 1$ なので、係数が大きいほど範囲が狭くなります。$q$ が大きく、係数も大きい。$Y$ 側が2重に効いて、こちらが残ります。
本試験ではこう問われる
原問は2011年度(H23)問題1(3)です。数値と係数が違い、しかも空欄補充の形になっています。
互いに独立な離散的確率変数 $X$、$Y$ の確率分布をそれぞれ、
$$P(X = x) = \left(\frac{1}{2}\right)^x \ (x = 1, 2, \cdots), \qquad P(Y = y) = 3 \cdot \left(\frac{1}{4}\right)^y \ (y = 1, 2, \cdots)$$
とする。このとき、確率変数 $3X + 2Y + 1$ の積率母関数 $M(t)$ は
$$M(t) = \frac{\fbox{1}}{\left(2 - e^{3t}\right) \cdot \left(\fbox{2}\right)} \qquad \left(\text{ただし、} t < \frac{1}{3}\log 2\right)$$
である。
確率関数の書き方が違うので、まず読み替えが要ります。$\left(\dfrac{1}{2}\right)^x = \dfrac{1}{2}\left(\dfrac{1}{2}\right)^{x-1}$ なので $X \sim Fs(1/2)$。$3 \cdot \left(\dfrac{1}{4}\right)^y = \dfrac{3}{4}\left(\dfrac{1}{4}\right)^{y-1}$ なので $Y \sim Fs(3/4)$ です。
$$M_X(t) = \frac{e^t}{2 - e^t}, \qquad M_Y(t) = \frac{3e^t}{4 - e^t}$$
$S = 3X + 2Y + 1$ なので
$$M(t) = e^t \cdot \frac{e^{3t}}{2 - e^{3t}} \cdot \frac{3e^{2t}}{4 - e^{2t}} = \frac{3e^{6t}}{\left(2 - e^{3t}\right)\left(4 - e^{2t}\right)}$$
空欄1は $3e^{6t}$、空欄2は $4 - e^{2t}$。選択肢には $e^{2t}$、$e^{3t}$、$e^{5t}$、$3e^{5t}$、$3e^{6t}$ が並び、分母側には $2 - e^t$、$2 - e^{2t}$、$4 - e^t$、$4 - e^{2t}$、$4 - e^{3t}$ が並びます。係数の3を落としても、$e$ の肩を1つ間違えても、別の選択肢に着地する作りです。
問題文が与えている条件 $t < \frac{1}{3}\log 2$ は、$2 - e^{3t} > 0$ から出ます。もう一方の $4 - e^{2t} > 0$ は $t < \log 2$ なので、こちらは効きません。原問では厳しいほうの条件が最初から書かれており、その形が空欄2を絞る手がかりになっています。
類題と原問で、どちらの分布が収束条件を決めるかが入れ替わっている点は見ておく価値があります。類題では $Y$ 側、原問では $X$ 側です。上限は $\log(1/q)$ を係数で割った値で決まり、$q$ と係数の両方が効くので、毎回両方の上限を計算して比べるほかありません。
まとめ
- $aX + b$ の積率母関数は $e^{bt} M_X(at)$。定数倍は引数へ、定数の足し算は外の因子へ。
- $M_{3X}(t) = M_X(3t)$ であって $\{M_X(t)\}^3$ ではない。後者は独立な3つの和のほう。
- ファーストサクセス分布の積率母関数は等比級数の和。公比 $qe^t$ が1未満のときだけ収束する。
- 存在条件は各因子から出る不等式のうち、いちばん厳しいものが残る。
- $M(0) = 1$ で検算できる。分母の係数を取り違えていれば、ここで合わなくなる。