問題
出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-4 幾何分布・ファーストサクセス分布の問題です。参考類題として H26.1(4) が挙げられています。目標解答時間は7分。
確率変数 $X, Y, Z$ は互いに独立で、同じ確率分布
$$P(X = k) = P(Y = k) = P(Z = k) = p \cdot q^k \qquad (k = 0, 1, 2, \dots,\ p > 0,\ q > 0,\ p + q = 1)$$
に従うものとする。確率変数 $W = X + Y + Z$ の積率母関数を $M(t)$ とおくと、
$$M(t) = \left(\frac{\fbox{1}}{1 - \fbox{2}}\right)^3 \qquad (\fbox{2} < 1)$$
であり、$W$ の原点のまわりの2次の積率は $\fbox{3}$ である。
まず何に着目するか
ここでも分布の名前は書かれていません。$p \cdot q^k$ という式だけが与えられています。
この形を読み解きます。$q^k$ は「$k$ 回続けて失敗する確率」、$p$ は「その次に成功する確率」。合わせて「初めて成功するまでに $k$ 回失敗する確率」です。$k$ は失敗回数を数えていて、$k = 0$ から始まります。
答えの形も大きなヒントです。$\left(\dfrac{\square}{1 - \square}\right)^3$ という3乗の形が示されています。3乗ということは、同じものを3つ掛けた結果です。独立な和の積率母関数は各項の積になるので、括弧の中は $X$ ひとつぶんの積率母関数だと分かります。
つまり、この問題で本当に求めるのは $X$ の積率母関数1つだけです。3乗は最後に付けるだけ。
3つ目の空欄「原点のまわりの2次の積率」は $E(W^2)$ のことです。積率母関数を2回微分して $t = 0$ を代入しても出ますが、$\left(\dfrac{p}{1-qe^t}\right)^3$ を2回微分するのは商と合成が重なって面倒です。
そこで分解します。
$$E(W^2) = V(W) + \{E(W)\}^2$$
分散と平均さえ分かれば、微分せずに2次の積率が作れます。ここが解法選択の分かれ目です。
解法の筋道
幾何分布の確率関数を、この問題の流儀で書いておきます。$0 < p < 1$、$q = 1 - p$ として
$$P(X = k) = p q^k, \qquad k = 0, 1, 2, \dots$$
負の2項分布との関係は次のとおりです。$X_1, \dots, X_n$ が互いに独立で、いずれもこの幾何分布に従うなら
$$\sum_{i=1}^{n} X_i \sim NB(n, p)$$
幾何分布は $NB(1, p)$ にあたります。「初めて成功するまでの失敗回数」を $n$ 個足せば「$n$ 回成功するまでの失敗回数」になる、というだけの話です。
負の2項分布 $NB(\alpha, p)$ の特性値は
$$E(X) = \frac{\alpha q}{p}, \qquad V(X) = \frac{\alpha q}{p^2}, \qquad M_X(t) = \left(\frac{p}{1 - qe^t}\right)^{\alpha}$$
積率母関数が使えるのは $qe^t < 1$、すなわち $t < -\log q$ の範囲です。問題文の「$\fbox{2} < 1$」という但し書きは、この収束条件を指しています。
平均と分散が $\alpha$ に比例していることに注目しておきます。$\alpha$ 個の独立な幾何分布の和なのだから、当然そうなります。
計算
確率関数の形から $X \sim Y \sim Z \sim NB(1, p)$ です。互いに独立なので
$$W = X + Y + Z \sim NB(3, p)$$
積率母関数は
$$M(t) = \left(\frac{p}{1 - qe^t}\right)^3, \qquad qe^t < 1$$
空欄1の答えは $p$、空欄2の答えは $qe^t$ です。
次に2次の積率を作ります。$\alpha = 3$ を入れて
$$E(W) = \frac{3q}{p}, \qquad V(W) = \frac{3q}{p^2}$$
したがって
$$E(W^2) = V(W) + \{E(W)\}^2 = \frac{3q}{p^2} + \left(\frac{3q}{p}\right)^2 = \frac{3q}{p^2} + \frac{9q^2}{p^2} = \frac{3q(1 + 3q)}{p^2}$$
空欄3の答えは $\dfrac{3q(1+3q)}{p^2}$ です。
検算をしておきます。$p \to 1$(ほぼ毎回成功する)とすると $q \to 0$ なので $E(W^2) \to 0$。成功確率が1に近いほど失敗回数がほぼ0になるのだから、これで合っています($0 < p < 1$ が前提なので、境界は極限として見ます)。
逆に $p$ を0に近づけると $E(W^2)$ は $p^2$ の逆数で発散します。成功しにくいほど失敗回数のばらつきが激しくなる、という直感とも合います。
一般化しておくと見通しがよい
幾何分布を $n$ 個足した場合を、そのまま文字で書いておきます。$W_n \sim NB(n, p)$ として
$$E(W_n) = \frac{nq}{p}, \qquad V(W_n) = \frac{nq}{p^2}, \qquad E(W_n^2) = \frac{nq}{p^2} + \frac{n^2q^2}{p^2} = \frac{nq(1 + nq)}{p^2}$$
$n = 3$ なら $\dfrac{3q(1+3q)}{p^2}$、$n = 2$ なら $\dfrac{2q(1+2q)}{p^2}$。個数が変わっても、この形に $n$ を入れるだけで済みます。
この一般形を持っておく理由は、後で見るように原問の個数が類題と違うからです。
つまずきポイント:幾何分布の平均を $1/p$ と書いてしまう
幾何分布には2つの流儀があります。
$$P(X = k) = pq^k \quad (k = 0, 1, 2, \dots), \qquad E(X) = \frac{q}{p}$$
$$P(X = k) = pq^{k-1} \quad (k = 1, 2, 3, \dots), \qquad E(X) = \frac{1}{p}$$
前者は失敗回数を数え、後者は試行回数を数えます。数える対象が1だけ違うので、平均も1だけ違います。$\dfrac{q}{p} + 1 = \dfrac{q + p}{p} = \dfrac{1}{p}$ で、確かに帳尻が合います。
後者はファーストサクセス分布と呼ばれることもありますが、この呼び分けも書籍によって揺れます。だから
$$E(W) = \frac{3}{p} \quad \text{(これは誤り)}$$
$$E(W) = \frac{3q}{p} \quad \text{(正しい)}$$
この問題では $k = 0, 1, 2, \dots$ と明記されているので、失敗回数を数える流儀です。名前ではなく、$k$ の動く範囲を見るのが確実です。$k$ が0から動くなら $q/p$、1から動くなら $1/p$。
分散のほうは、どちらの流儀でも $q/p^2$ で同じです。定数を足しても分散は変わらないからで、ここは取り違えても影響が出ません。影響が出るのは平均と、平均を経由する2次の積率のほうです。
タクティクスの解説も、この揺れを理由に「通常は確率分布の名前は出さず、確率関数を提示して先に進めていく」と書いています。出題側が名前を伏せるのは意地悪ではなく、曖昧さを避けるためです。
本試験ではこう問われる
原問は2014年度(H26)問題1(4)です。構造は同じで、足す個数が違います。
確率変数 $X$、$Y$ は互いに独立で、同じ確率分布 $P(X = k) = P(Y = k) = p \cdot q^k$ $(k = 0, 1, \cdots,\ p > 0,\ q > 0,\ p + q = 1)$ に従うものとする。確率変数 $Z = X + Y$ の積率母関数を $\varphi(\theta)$ とおくと、$\varphi(\theta) = \left(\dfrac{\fbox{1}}{1 - \fbox{2}}\right)^2$ $(\fbox{2} < 1)$ であり、$Z$ の原点のまわりの2次の積率は $\fbox{3}$ である。
類題は3つ、原問は2つ。一般形に $n = 2$ を入れます。
$$\varphi(\theta) = \left(\frac{p}{1 - qe^{\theta}}\right)^2, \qquad E(Z^2) = \frac{2q(1 + 2q)}{p^2}$$
選択肢には $2q(1+q)$、$2q(1+2q)$、$2q(1+3q)$ が並んでいて、正解は $2q(1+2q)$ を含むものです。1文字ぶんの違いで外させにくる作りなので、$V + E^2$ の分解を手順として持っていないと当てられません。
同じ回の問題1(3)では、一様分布の最小値の密度関数と期待値が問われています。幾何分布の連続版が指数分布(どちらも最初の事象までの待ち時間)で、その和がそれぞれ負の2項分布とガンマ分布になる、という対応を押さえておくと整理しやすい。一様分布の最小値のほうは順序統計量の論点で、これとは別の道具ですが、離散と連続を行き来させる出題意図は共通しています。
幾何分布と負の2項分布の関係は、連続側にそのまま対応物があります。
| 離散 | 連続 | 意味 |
|---|---|---|
| 幾何分布 $NB(1, p)$ | 指数分布 | 初めて起きるまで |
| 負の2項分布 $NB(n, p)$ | ガンマ分布 | $n$ 回起きるまで |
「1回目まで」を $n$ 個足すと「$n$ 回目まで」になる、という構造が両側で共通です。片方で理解しておけば、もう片方は形を移すだけになります。
まとめ
- $p q^k$($k = 0$ から)は幾何分布。$k$ の動く範囲を見れば流儀が判別できる。
- 独立な幾何分布 $n$ 個の和は負の2項分布 $NB(n, p)$。積率母関数の指数がそのまま個数。
- 2次の積率は $E(W^2) = V(W) + \{E(W)\}^2$ で作る。積率母関数を2回微分しなくてよい。
- $n$ 個の和なら $E(W_n^2) = \dfrac{nq(1+nq)}{p^2}$。原問(2014年度)は $n = 2$ で、そのまま入る。
- 平均は流儀で $q/p$ と $1/p$ に割れるが、分散はどちらも $q/p^2$ で変わらない。