問題

出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-6 超幾何分布の問題です。参考類題として H27.2 が挙げられています。目標解答時間は25分の大問なので、この記事では前半にあたる (1) と (2) を扱います。

前提となる設定は次のとおりです。

ある製品の1ロットは $n$ 個からなる。ある1ロット中の $n_1\ (n_1 \geq 2)$ 個は不良品であり、残りの $n_2\ (= n - n_1 \geq 2)$ 個は良品であるとする。その1ロットから、無作為に $m\ (1 \leq m \leq n)$ 個を非復元抽出する。

このとき、取り出して並べた $i$ 番めが不良品なら $X_i = 1$、良品なら $X_i = 0$ とします。

(1) $(X_i, X_j)$ の同時確率分布、および $P(X_i = 0)$、$P(X_i = 1)$ を求めよ。

(2) $Y = \sum_{i=1}^{m} X_i$ とする。$E(Y)$、$V(X_i)$、$Cov(X_i, X_j)$、$V(Y)$ を求めよ。

まず何に着目するか

求めたいのは $Y$ の期待値と分散です。$Y$ は超幾何分布に従うので、確率関数

$$P(Y = k) = \frac{\binom{n_1}{k}\binom{n_2}{m-k}}{\binom{n}{m}}$$

を使って $\sum k P(Y=k)$ を計算することもできます。ただし組合せの和を処理する必要があり、分散まで出すとかなり重くなります。

この問題は別の道を用意しています。$Y$ を $m$ 個の指示変数の和として書くことです。

$$Y = X_1 + X_2 + \cdots + X_m$$

各 $X_i$ は0か1しか取らないので扱いが軽い。期待値は線形性がそのまま使えます。線形性は独立でなくても成り立つので、非復元抽出でも問題ありません。

分散のほうは、そのまま足せるのは各組が無相関のときだけです。非復元抽出では相関が生じるので、共分散を経由します。ここが山場です。

着目すべきもう1つの点は、$P(X_i = 1)$ が $i$ によらないことです。何番めに引いても不良品である確率は同じ。くじ引きで何番めに引いても当たる確率が変わらないのと同じ話です。この事実を認めれば、$m$ 個ぶんを個別に計算する必要がなくなります。

解法の筋道

くじ引きの原理から始めます。$n$ 個のうち $n_1$ 個が不良品なら、何番めに取り出しても不良品である確率は $\dfrac{n_1}{n}$ です。

$$P(X_i = 1) = \frac{n_1}{n}, \qquad P(X_i = 0) = \frac{n_2}{n}$$

2つ同時に見るときは(以下、$i \neq j$ とします)、乗法定理を使います。$i$ 番めが不良品である確率が $\dfrac{n_1}{n}$、その条件のもとで $j$ 番めも不良品である確率は、残り $n-1$ 個のうち不良品が $n_1 - 1$ 個なので $\dfrac{n_1-1}{n-1}$ です。

$$P(X_i = 1 \cap X_j = 1) = \frac{n_1}{n} \cdot \frac{n_1 - 1}{n - 1}$$

$X_i$ は0と1しか取らないので、$X_i^2 = X_i$ です。したがって

$$E(X_i^2) = E(X_i) = P(X_i = 1)$$

分散の計算がこれで軽くなります。同じ理由で $X_i X_j$ も0と1しか取らないので、$E(X_iX_j) = P(X_i = 1 \cap X_j = 1)$ です。

$V(Y)$ は、共分散をすべて足し上げる形で書けます。

$$V(Y) = \sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{m} Cov(X_i, X_j)$$

$m \times m$ の表を思い浮かべると、対角に $Cov(X_i, X_i) = V(X_i)$ が $m$ 個、対角以外に $Cov(X_i, X_j)$ が $m(m-1)$ 個並びます。対角どうし・対角以外どうしでそれぞれ値が同じなので、個数を掛けるだけで済みます。

計算

(1) から順に出します。

$$P(X_i = 1 \cap X_j = 1) = \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_1-1}{n-1} = \frac{n_1(n_1-1)}{n(n-1)}$$

$$P(X_i = 1 \cap X_j = 0) = P(X_i = 0 \cap X_j = 1) = \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_2}{n-1} = \frac{n_1 n_2}{n(n-1)}$$

$$P(X_i = 0 \cap X_j = 0) = \frac{n_2}{n}\cdot\frac{n_2-1}{n-1} = \frac{n_2(n_2-1)}{n(n-1)}$$

$$P(X_i = 1) = \frac{n_1}{n}, \qquad P(X_i = 0) = \frac{n_2}{n}$$

4つの同時確率を足すと1になります。$n_1(n_1-1) + 2n_1n_2 + n_2(n_2-1) = (n_1+n_2)^2 - (n_1+n_2) = n(n-1)$ なので、確かに合います。ここで検算しておくと安心です。

(2) に進みます。期待値は線形性だけで出ます。

$$E(Y) = E(X_1) + \cdots + E(X_m) = m \cdot \frac{n_1}{n} = \frac{m n_1}{n}$$

各項の分散は、$E(X_i^2) = E(X_i)$ を使って

$$V(X_i) = \frac{n_1}{n} - \left(\frac{n_1}{n}\right)^2 = \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_2}{n} = \frac{n_1 n_2}{n^2}$$

共分散を出します。

$$Cov(X_i, X_j) = E(X_iX_j) - E(X_i)E(X_j) = \frac{n_1(n_1-1)}{n(n-1)} - \left(\frac{n_1}{n}\right)^2$$

通分します。

$$= \frac{n_1(n_1-1)n - n_1^2(n-1)}{n^2(n-1)} = \frac{n_1\left\{n_1 n - n - n_1 n + n_1\right\}}{n^2(n-1)} = \frac{n_1(n_1 - n)}{n^2(n-1)}$$

$n_1 - n = -n_2$ なので

$$Cov(X_i, X_j) = -\frac{n_1 n_2}{n^2(n-1)}$$

負になりました。

$V(Y)$ を組み立てます。対角が $m$ 個、対角以外が $m(m-1)$ 個です。

$$V(Y) = m \cdot \frac{n_1n_2}{n^2} - m(m-1)\cdot\frac{n_1n_2}{n^2(n-1)} = \frac{m n_1 n_2}{n^2}\left\{1 - \frac{m-1}{n-1}\right\}$$

括弧の中をまとめます。

$$1 - \frac{m-1}{n-1} = \frac{n-1-m+1}{n-1} = \frac{n-m}{n-1}$$

したがって

$$V(Y) = m \cdot \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_2}{n}\cdot\frac{n-m}{n-1}$$

復元抽出と比べると意味が見える

もし取り出した個体を毎回戻すなら、各回は独立になり、$Y \sim Bin\!\left(m, \dfrac{n_1}{n}\right)$ です。分散は

$$V(Y) = m \cdot \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_2}{n}$$

非復元抽出で求めた式と見比べると、$\dfrac{n-m}{n-1}$ という因子だけが違います。これを有限修正係数といいます。

$m \leq n$ なので、この係数は必ず1以下です。つまり非復元抽出の分散は復元抽出以下になります($2 \leq m \leq n$ なら真に小さく、$m = 1$ では等しい)。

理由は共分散の符号にあります。取り出した個体を戻さないので、1つ不良品を引くと残りの不良品が減り、次に不良品を引きにくくなる。互いに打ち消し合う方向に働くので、合計のばらつきが抑えられます。共分散が負であることが、そのまま分散の縮小として現れています。

極端な場合で確かめます。$m = n$、つまり全部取り出すと $\dfrac{n-m}{n-1} = 0$ で分散が0になります。全部取り出せば不良品は必ず $n_1$ 個なので、ばらつきようがありません。合っています。

逆に $m = 1$ なら係数は1で、1個だけ取るなら復元も非復元も同じです。これも当然です。

手で確かめる

小さい数で全数確認しておきます。$n_1 = 3$、$n_2 = 5$、$n = 8$、$m = 4$ とします。

公式
$P(X_i = 1)$ $n_1/n$ $3/8$
$P(X_i=1 \cap X_j=1)$ $n_1(n_1-1)/\{n(n-1)\}$ $3/28$
$Cov(X_i,X_j)$ $-n_1n_2/\{n^2(n-1)\}$ $-15/448$
$E(Y)$ $mn_1/n$ $3/2$
$V(Y)$ 上式 $15/28$
復元なら $V(Y)$ $m(n_1/n)(n_2/n)$ $15/16$
有限修正係数 $(n-m)/(n-1)$ $4/7$

$\dfrac{15}{16}\cdot\dfrac{4}{7} = \dfrac{15}{28}$ で一致します。8個から4個を取り出す全通りを数え上げても同じ値になります。

つまずきポイント:2つの事象を独立だと思って掛ける

$P(X_i = 1 \cap X_j = 1)$ を出すときに、$\dfrac{n_1}{n}$ と $\dfrac{n_1-1}{n-1}$ を掛けます。この操作を「独立だから掛けた」と理解すると、後で矛盾します。

$$P(X_i=1 \cap X_j=1) = P(X_i=1)P(X_j=1) = \left(\frac{n_1}{n}\right)^2 \quad \text{(これは誤り)}$$

$$P(X_i=1 \cap X_j=1) = P(X_i=1)\,P(X_j=1 \mid X_i=1) = \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_1-1}{n-1} \quad \text{(正しい)}$$

使っているのは乗法定理、つまり条件付き確率です。2つめの因子の分母が $n$ ではなく $n-1$ になっているのが、その証拠です。独立なら条件を付けても確率は変わらないので、$n$ のままのはずです。

さきほどの数値で確かめます。$n_1=3$、$n_2=5$、$n=8$ のとき

$$P(X_i=1 \cap X_j=1) = \frac{3}{28} = 0.1071, \qquad P(X_i=1)P(X_j=1) = \left(\frac{3}{8}\right)^2 = \frac{9}{64} = 0.1406$$

一致しません。独立ではないことがはっきりします。

そもそも、この問題の後半で共分散が0でないことを示しています。共分散が0でなければ独立ではありません。独立だと考えると、$Cov(X_i,X_j) = 0$ となって $V(Y)$ が二項分布の値になり、有限修正係数が出てきません。問題の主題そのものが消えてしまいます。

なお、タクティクスの解答はこの箇所を「互いに独立なので」と書いていますが、実際に計算しているのは上の乗法定理の形です。同じ解答の後半で共分散を負と求めているので、そちらと整合させて読んでください。掛け算をしてよい理由は独立性ではなく、条件付き確率の定義です。

共分散が0でないのに期待値だけは足せる、という非対称も確認しておきます。期待値の線形性は何の条件も要求しませんが、分散をそのまま足すには無相関(独立ならば自動的に成立)が要ります。この違いが、分散でだけ共分散が顔を出す理由です。

本試験ではこう問われる

原問は2015年度(H27)問題2です。設定の題材が違うだけで、構造は同じです。

ある池には $n$ 匹の魚がいる。その中の $n_1$ 匹は赤色であり、残りの $n_2$ 匹は黒色であるとする。この $n$ 匹の中から非復元抽出により無作為に $r$ 匹すくい上げる試行を行うことにする。

不良品と良品が、赤い魚と黒い魚に置き換わっています。取り出す個数を表す文字が $m$ から $r$ に変わっているだけで、答えの形はそのままです。

原問は空欄補充の形式で、$V(Y)$ については2つの空欄に分けて答えさせています。選択肢は26個あり、$\dfrac{rn_1}{n}$、$\dfrac{n_1n_2}{n^2}$、$\dfrac{n-r}{n-1}$ のような部品が並んでいます。組み合わせて作る形です。

魚の個体数を推定する文脈は、標本調査の標識再捕獲法につながります。池の魚を捕まえて印を付け、戻してからもう一度捕まえて印の付いた個体の割合を見る。そのとき印の付いた個体数が超幾何分布に従います。同じ構造が、統計分野の標本調査でも顔を出します。

この問題の後半では、$P(Y = k)$ が正になる $k$ の範囲と、$n$ を大きくしたときの近似が問われます。そちらは別の記事で扱います。

まとめ

  • $Y$ の分布を直接扱わず、1個ずつの指示変数 $X_i$ の和に分解する。
  • くじ引きの原理より $P(X_i=1) = n_1/n$。何番めに取り出しても同じ。
  • $X_i$ は0と1しか取らないので $X_i^2 = X_i$。分散の計算が軽くなる。
  • 2つ同時の確率は乗法定理で出す。独立ではない。共分散は $-n_1n_2/\{n^2(n-1)\}$ で負。
  • $V(Y)$ は復元抽出の値に有限修正係数 $(n-m)/(n-1)$ を掛けたもの。$m=n$ で0になる。