問題
出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-6 超幾何分布の問題です。参考類題として H27.2 が挙げられています。目標解答時間25分の大問なので、この記事では後半にあたる (3) を扱います。
前提となる設定を再掲します。
ある製品の1ロットは $n$ 個からなる。ある1ロット中の $n_1\ (n_1 \geq 2)$ 個は不良品であり、残りの $n_2\ (= n - n_1 \geq 2)$ 個は良品であるとする。その1ロットから、無作為に $m\ (1 \leq m \leq n)$ 個を非復元抽出する。取り出した $m$ 個に含まれる不良品の個数を $Y$ とする。
(3) $P(Y = k) > 0$ となる整数 $k$ の範囲を不等式で表し、そのときの $P(Y = k)$ を求めよ。また、$n_1 : n_2$ の比は一定のまま $n$ を十分大きくしたとき、$P(Y = k)$ と $V(Y)$ がどう近似できるか答えよ。
まず何に着目するか
$k$ の範囲を $0 \leq k \leq m$ と書きたくなります。取り出した $m$ 個のうち不良品が何個か、なのだから0個から $m$ 個まで。
ところが、これは常には正しくありません。押さえるべき条件が上下それぞれにあります。
上から。不良品はロットに $n_1$ 個しかないので、$m$ 個取り出しても $n_1$ 個より多くは引けません。$m$ が $n_1$ より小さければ $m$ 個が上限ですが、$m$ が $n_1$ を超えていれば $n_1$ 個が上限です。
下から。良品はロットに $n_2$ 個しかありません。$m$ 個取り出すとき $m$ が $n_2$ を超えていれば、良品だけでは足りず、必ず $m - n_2$ 個以上は不良品を引くことになります。$m$ が $n_2$ 以下なら0個でも構いません。
この2つを式にすると範囲が決まります。着目点は「取り出す個数」と「その色の個体数」を毎回比べることです。
解法の筋道
超幾何分布の確率関数を用意します。$N$ 個のうち $m$ 個がある属性を持つ母集団から $n$ 個を非復元抽出したときの、その属性を持つ個数を $X$ とすると
$$P(X = k) = \frac{\binom{m}{k}\binom{N-m}{n-k}}{\binom{N}{n}}$$
この問題の記号に合わせると、$n$ 個のロットから $m$ 個を取り出し、不良品 $n_1$ 個のうち $k$ 個を引く形になります。
$$P(Y = k) = \frac{\binom{n_1}{k}\binom{n_2}{m-k}}{\binom{n}{m}}$$
分子の左側が「不良品 $n_1$ 個から $k$ 個を選ぶ」、右側が「良品 $n_2$ 個から $m-k$ 個を選ぶ」、分母が「全体 $n$ 個から $m$ 個を選ぶ」です。
範囲の条件は、この組合せが0にならない条件そのものです。$\binom{n_1}{k}$ が0でないためには $k \leq n_1$、$\binom{n_2}{m-k}$ が0でないためには $m - k \leq n_2$、すなわち $k \geq m - n_2$。これに $0 \leq k \leq m$ を合わせます。
近似のほうは、前半で求めた分散の形から見えます。
$$V(Y) = m \cdot \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_2}{n}\cdot\frac{n-m}{n-1}$$
最後の因子が有限修正係数です。$n_1 : n_2$ の比を保ったまま $n$ を大きくすると、$\dfrac{n_1}{n}$ と $\dfrac{n_2}{n}$ は一定のままで、$\dfrac{n-m}{n-1}$ だけが1に近づきます。
計算
範囲から決めます。
上限は、$k \leq n_1$ と $k \leq m$ の両方を満たす必要があるので、厳しいほうを取ります。
$$k \leq \min(m,\ n_1)$$
下限は、$k \geq m - n_2$ と $k \geq 0$ の両方なので
$$k \geq \max(m - n_2,\ 0)$$
まとめて
$$\max(m - n_2,\ 0) \leq k \leq \min(m,\ n_1)$$
この範囲の整数 $k$ に対して
$$P(Y = k) = \frac{\binom{n_1}{k}\binom{n_2}{m-k}}{\binom{n}{m}}$$
次に近似です。$n_1 : n_2$ を保ったまま $n$ を大きくすると、1個取り出しても構成比がほとんど動かなくなります。取り出したものを戻したのと変わらない状況になるので、各回が独立に近づき、$Y$ は2項分布で近似できます。
$$P(Y = k) \approx \binom{m}{k}\left(\frac{n_1}{n}\right)^{k}\left(\frac{n_2}{n}\right)^{m-k}, \qquad 0 \leq k \leq m$$
$$V(Y) \approx m \cdot \frac{n_1}{n}\cdot\frac{n_2}{n}$$
分散のほうは、有限修正係数 $\dfrac{n-m}{n-1}$ が1に近づくことから直ちに出ます。
近似後の範囲が $0 \leq k \leq m$ に戻っている点に注目してください。$n$ が大きければ $m - n_2$ は負になり $\min(m, n_1)$ は $m$ になるので、範囲の制約が自然に消えます。範囲が $0$ から $m$ になるのは、母集団が十分大きい場合の話だったわけです。
数値で確かめる
範囲が $0$ から $m$ にならない場合を、具体的に見ます。
$n_1 = 3$、$n_2 = 5$、$n = 8$、$m = 4$ のとき、$\max(4-5, 0) = 0$、$\min(4, 3) = 3$ なので範囲は $0 \leq k \leq 3$ です。4個取り出しても不良品は3個しかないので、$k = 4$ は起こりません。
| $k$ | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
|---|---|---|---|---|---|
| $P(Y=k)$ | $1/14$ | $3/7$ | $3/7$ | $1/14$ | $0$ |
合計は $\dfrac{1}{14} + \dfrac{3}{7} + \dfrac{3}{7} + \dfrac{1}{14} = 1$ です。8個から4個を取り出す全通りを数え上げても同じ値になります。
下限が0にならない例も作ります。$n_1 = 5$、$n_2 = 3$、$n = 8$、$m = 6$ とすると、$\max(6-3, 0) = 3$、$\min(6, 5) = 5$ で範囲は $3 \leq k \leq 5$ です。良品は3個しかないので、6個取り出せば少なくとも3個は不良品になります。$k = 0, 1, 2$ は起こりません。
次に近似の効き方を見ます。不良品率を $3/8$ に保ったままロットを大きくしていきます。$m = 4$ で固定します。
| ロット $n$ | 有限修正係数 | $V(Y)$ | 2項分布の $V$ |
|---|---|---|---|
| 8 | $4/7 = 0.571$ | $0.536$ | $0.938$ |
| 40 | $36/39 = 0.923$ | $0.865$ | $0.938$ |
| 400 | $396/399 = 0.992$ | $0.930$ | $0.938$ |
| 4000 | $3996/3999 = 0.999$ | $0.937$ | $0.938$ |
$n$ が $m$ の100倍程度あれば、有限修正係数は1と見なせる水準になります。逆に $n$ が $m$ と同じ桁のときは無視できません。
つまずきポイント:範囲を $0 \leq k \leq m$ と書いてしまう
もっとも起きやすい誤りです。
$$0 \leq k \leq m \quad \text{(これは誤り)}$$
$$\max(m - n_2,\ 0) \leq k \leq \min(m,\ n_1) \quad \text{(正しい)}$$
$n$ が $m$ に比べて十分大きければ結果として一致するので、普段の演習では表面化しません。ロットの個数と取り出す個数が近いときにだけ効きます。
見分け方を手順にしておきます。取り出す個数 $m$ を、不良品の個数 $n_1$ と良品の個数 $n_2$ のそれぞれと比べる。$m > n_1$ なら上限が $n_1$ に切り替わり、$m > n_2$ なら下限が $m - n_2$ に切り上がる。両方を比べるのがこの問題の要求です。
なお、組合せ記号について $i < j$ のとき $\binom{i}{j} = 0$ と約束しておけば、確率関数の式は $0 \leq k \leq m$ の全体で書いても正しくなります。範囲外では分子が0になるからです。ただし問題が範囲そのものを聞いている場合は、この約束に逃げずに $\max$ と $\min$ で答える必要があります。
もう1つ、近似の方向を取り違える誤りもあります。
$$n \text{ を大きくすると超幾何分布はポアソン分布に近づく} \quad \text{(これは誤り)}$$
$$n \text{ を大きくすると超幾何分布は2項分布に近づく} \quad \text{(正しい)}$$
近づく先が2項分布なのは、不良品率 $n_1/n$ を一定に保っているからです。もし不良品率のほうを0に近づけながら $m$ を大きくし、その積を一定に保つなら、次は2項分布からポアソン分布へ移ります。どの量を固定するかで行き先が変わります。
| 操作 | 行き先 |
|---|---|
| 構成比を保って母集団を大きくする | 超幾何分布 → 2項分布 |
| 成功確率と試行回数の積を保つ | 2項分布 → ポアソン分布 |
| $np$ と $n(1-p)$ がともに大きくなるように試行回数を増やす | 2項分布 → 正規分布 |
3つとも別の極限です。同じ「大きくする」でも何を固定するかが違います。
本試験ではこう問われる
原問は2015年度(H27)問題2です。題材が製品のロットではなく池の魚になっています。
ある池には $n$ 匹の魚がいる。その中の $n_1$ 匹は赤色であり、残りの $n_2$ 匹は黒色であるとする。この $n$ 匹の中から非復元抽出により無作為に $r$ 匹すくい上げる試行を行うことにする。
取り出す個数を表す文字が $m$ から $r$ に変わっているだけで、構造は同じです。
原問は空欄補充の形式で、$P(Y=k)$ の範囲については $\min(n_1, r)$ を含む形を選ばせています。組合せ記号の選択肢が別枠で用意されており、分子と分母を組み合わせて確率関数を作る形になっています。近似についても、確率関数と分散の2か所で問われています。
魚を題材にしているのは偶然ではありません。池の魚の総数を推定する標識再捕獲法では、印を付けて放流した魚を再度捕獲したときの、印の付いた個体数が超幾何分布に従います。統計分野の標本調査で扱う内容と、確率分野のこの分布がつながっています。
超幾何分布そのものの名前が問題文に出た年度は、平成12年度から令和7年度までの26年度のうち2年度です。ただし、名前を出さずに「非復元抽出で何個取り出したときの個数」という形で問う出題は、これより多くなります。非復元という語を見たら、有限修正係数と範囲の2つを思い出すのが安全です。
まとめ
- 取りうる値の範囲は $\max(m-n_2, 0) \leq k \leq \min(m, n_1)$。$0$ から $m$ とは限らない。
- 上限は不良品の在庫、下限は良品の在庫で決まる。取り出す個数を両方と比べる。
- 確率関数は $\binom{n_1}{k}\binom{n_2}{m-k}/\binom{n}{m}$。分子は不良品側と良品側の選び方。
- 構成比を保って母集団を大きくすると2項分布に近づく。有限修正係数が1に近づくため。
- $n$ が $m$ の100倍ほどあれば修正係数は無視できるが、同じ桁なら効く。