問題
出典は合格へのタクティクス 数学(上巻)第1章 離散型分布、1-3 ポアソン分布の問題です。参考類題として H28.1(3) が挙げられています。目標解答時間は7分。
ある店では、店員A、店員Bの2人で1種類の製品を販売している。過去の営業実績から1日の平均売上個数は店員Aが2個、店員Bは3個である。店員A、店員Bの売上個数は互いに独立でどちらもポアソン分布に従うものとする。
1日の売上個数は店員A、店員B合計して高々 $k$ 個と考えて製品を用意しておけば、お客様からの購入依頼に70%以上の確実さで対応できる。
このとき $k$ の値を求めよ。なお、$e = 2.718$ として計算すること。
まず何に着目するか
問題文に2人の店員が出てきますが、聞かれているのは合計だけです。2人を別々に扱う必要はありません。
ポアソン分布には再生性があります。$X_1 \sim Po(\lambda_1)$、$X_2 \sim Po(\lambda_2)$ が互いに独立なら
$$X_1 + X_2 \sim Po(\lambda_1 + \lambda_2)$$
平均を足すだけで、合計もまたポアソン分布になる。これを最初に使えば、2変数の問題が1変数の問題に落ちます。$Po(2)$ と $Po(3)$ を合わせて $Po(5)$、以降は店員の区別は消えます。
着目点はもう1つあります。「$e = 2.718$ として計算せよ」という指示です。これは、電卓で数値を積み上げることを想定した問題だという合図です。答えが閉じた式で出るなら $e$ の値は要りません。
つまりこの問題は、$P(S \leq k) \geq 0.7$ を満たす最小の $k$ を、実際に $k = 0, 1, 2, \dots$ と足し上げて探す問題です。そう決まれば、あとは足し上げをどれだけ速くできるかの勝負になります。
解法の筋道
ポアソン分布の確率関数は
$$P(X = k) = e^{-\lambda} \frac{\lambda^k}{k!}, \qquad k = 0, 1, 2, \dots$$
これを $k = 0$ から順に計算していくと、毎回 $\lambda^k$ と $k!$ を作り直すことになります。7分の制限時間では厳しい。
そこで、隣り合う項の比を取ります。
$$\frac{P(X = k)}{P(X = k-1)} = \frac{e^{-\lambda} \lambda^k / k!}{e^{-\lambda} \lambda^{k-1} / (k-1)!} = \frac{\lambda}{k}$$
つまり
$$P(X = k) = \frac{\lambda}{k} \cdot P(X = k-1), \qquad k = 1, 2, \dots$$
指数も階乗も消えました。最初の $P(X = 0) = e^{-\lambda}$ だけ作れば、あとは前の値に $\lambda/k$ を掛けるだけで次に進めます。電卓の操作でいえば、1項につき掛け算1回と足し算1回です。
方針が決まりました。$\lambda = 5$ として $P(S = 0)$ を出し、漸化式で $P(S = k)$ を伸ばしながら累積和が0.7を超えるところを探す。
計算
再生性より $S = A + B \sim Po(5)$。求めるのは $P(S \leq k) \geq 0.7$ を満たす最小の整数 $k$ です。
出発点は
$$P(S = 0) = e^{-5} = 2.718^{-5} = \frac{1}{148.336\cdots} = 0.00674$$
以下、小数点以下第6位を四捨五入して第5位までで進めます。
| $k$ | 掛ける値 | $P(S = k)$ | $P(S \leq k)$ |
|---|---|---|---|
| 0 | — | 0.00674 | 0.00674 |
| 1 | $5/1$ | 0.03370 | 0.04044 |
| 2 | $5/2$ | 0.08425 | 0.12469 |
| 3 | $5/3$ | 0.14042 | 0.26511 |
| 4 | $5/4$ | 0.17553 | 0.44064 |
| 5 | $5/5$ | 0.17553 | 0.61617 |
| 6 | $5/6$ | 0.14628 | 0.76245 |
$P(S \leq 5) = 0.61617$ は0.7に届かず、$P(S \leq 6) = 0.76245$ で初めて超えます。
答えは $k = 6$ です。
途中で $P(S = 4)$ と $P(S = 5)$ が同じ値になっているのは偶然ではありません。掛ける値が $\lambda/k = 5/5 = 1$ になるからです。$\lambda$ が整数のとき、確率関数は $k = \lambda - 1$ と $k = \lambda$ で最大値を並べて取ります。この性質は検算に使えます。表の中で同じ数字が2つ並ばなかったら、どこかで計算を間違えています。
つまずきポイント:正規近似で概算すると、切り上げ方を誤る
$\lambda$ が5以上なら正規近似が使える、という話を聞いたことがあるかもしれません。実際にやってみます。$S$ を $N(5, 5)$ で近似すると、$P(S \leq k) \geq 0.7$ から
$$\frac{k - 5}{\sqrt{5}} \geq u(0.3) = 0.5244 \quad \Longrightarrow \quad k \geq 5 + 0.5244\sqrt{5} = 6.173$$
ここで、連続修正なしの $6.17$ をそのまま切り上げて7と答えると誤りです。正しい答えは6でした。切り上げ自体が悪いのではなく、連続修正なしの近似値を離散分布の正確な境界として使ったことがずれの原因です。
$$k = 7 \quad \text{(これは誤り)}$$
$$k = 6 \quad \text{(正しい)}$$
ずれる理由は、連続分布で離散分布を近似しているのに、半整数のずれを補正していないからです。連続修正を入れて $P(S \leq k) \approx \Phi\!\left(\dfrac{k + 0.5 - 5}{\sqrt{5}}\right)$ とすると
$$k = 5: \ \Phi(0.224) = 0.588, \qquad k = 6: \ \Phi(0.671) = 0.749$$
となり、6で初めて0.7を超えます。今度は正しく出ました。
この問題での正規近似の役割は、答えを出すことではなく「6か7のあたりだ」と見当をつけることです。タクティクスの解説も、時間が足りないときに概算で選択肢を絞り、余裕ができたら戻ってくるという使い方を勧めています。$\lambda = 5$ 程度では近似の精度はその程度だと理解しておくのが安全です。
本試験ではこう問われる
原問は2016年度(H28)問題1(3)です。タクティクスの類題とは数字が2か所違います。
ある店では、店員A、店員Bの2人で1種類の製品を販売している。過去の営業実績から1日の平均売上個数は店員Aが1個、店員Bが2個である。(中略)1日の売上個数は店員A、店員B合計して高々◻個と考えて製品を用意しておけば、お客さまからの購入依頼に95%以上の確実さで対応できる。
平均が1個と2個なので $\lambda = 3$、必要な確実さは95%です。同じ手順で表を作ります。
| $k$ | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $P(S = k)$ | 0.04980 | 0.14941 | 0.22411 | 0.22411 | 0.16808 | 0.10085 | 0.05043 |
| $P(S \leq k)$ | 0.04980 | 0.19921 | 0.42332 | 0.64743 | 0.81552 | 0.91637 | 0.96679 |
$k = 6$ で初めて0.95を超えます。選択肢は3から10までの8個で、正解は (D) の6です。
$\lambda$ も要求水準も違うのに答えが同じ6になったのは、たまたまです。$\lambda$ を下げれば必要な在庫は減り、要求水準を上げれば増える。2つの変更が逆向きに効いて、結果的に打ち消し合っただけなので、類題の答えを覚えて臨むと足をすくわれます。手順を持って帰るべきで、数字を持って帰るべきではありません。
$\lambda = 3$ の表でも $P(S = 2)$ と $P(S = 3)$ が同じ値で並んでいます。掛ける値が $3/3 = 1$ になるからで、さきほどの検算法がそのまま効いています。
なお、この年度の問題1では (1) で記憶喪失性を持つ分布を選ばせ、(2) で指数分布の最小値を扱っています。ポアソン過程を介して、件数を数えればポアソン分布・間隔を測れば指数分布という裏表の関係があるので、同じ回の中で行き来させる作りになっています。
まとめ
- 独立なポアソン分布の和はポアソン分布。平均を足すだけで2変数が1変数になる。
- 累積確率は $P(X = k) = (\lambda/k) \cdot P(X = k-1)$ で伸ばす。指数と階乗を作り直さずに済む。
- $\lambda$ が整数なら $k = \lambda - 1$ と $k = \lambda$ で確率が並ぶ。表の検算に使える。
- 正規近似は当たりをつける道具。連続修正なしで切り上げると1つ大きい答えに着地する。
- 原問(2016年度)は $\lambda = 3$・95%で、答えは同じ6。数字ではなく手順を持ち帰る。