この記事で扱う証明
教科書 第5章 練習問題(1)の(10)です。
いかなる保険種類でも、平準純保険料の保険料払込期間を短縮すれば、平準純保険料式責任準備金は高くなることを証明せよ。
養老保険でも終身保険でも定期保険でも、給付の形が何であっても成り立つ、という主張です。
「いかなる保険種類でも」をどう扱うか
この問題の核心は、商品を特定しないことです。養老保険で示しても、それは養老保険の話にしかなりません。
そこで、給付の中身を1文字に押し込めます。契約から $t$ 年後の時点における将来給付の現価を $A_t$ と置く。死亡保険金なのか満期保険金なのか、金額が一定か逓増かは問いません。ただ「その時点から先に会社が払う給付の現価」とだけ決めておきます。
この置き方さえできれば、あとは機械的です。証明の8割はここで終わっています。
保険料と責任準備金を $A_t$ で書く
払込期間が $m$ 年の場合、収支相等から平準保険料は
$${}_{m}P = \frac{A_0}{\aaxn{x}{m}}$$
契約時点の給付現価 $A_0$ を、払込期間の年金現価で割ったものです。
責任準備金は将来法で書けます。$t \leq m$ のとき、
$${}_{t}^{m}V = A_t - {}_{m}P \cdot \aaxn{x+t}{m-t}$$
これから払う給付の現価から、これから受け取る保険料の現価を引く。定義そのものです。$t > m$ なら払込が終わっているので ${}_{t}^{m}V = A_t$ になります。
払込期間が $l$ 年($l < m$)の場合も、$m$ を $l$ に置き換えれば同じ形の式が立ちます。
差を取ると、給付の中身が消える
$0 < t \leq l$ の範囲で、2つの責任準備金の差を取ります($t = 0$ ではどちらも0で等しくなるので、差が出るのはこの範囲です)。
$${}_{t}^{l}V - {}_{t}^{m}V = {}_{m}P \cdot \aaxn{x+t}{m-t} - {}_{l}P \cdot \aaxn{x+t}{l-t}$$
$A_t$ が消えました。どちらの契約も同じ給付なので、将来給付の現価は共通で、引き算で落ちます。ここが「いかなる保険種類でも」が効く瞬間です。
保険料の式を代入します。
$$= A_0 \left( \frac{\aaxn{x+t}{m-t}}{\aaxn{x}{m}} - \frac{\aaxn{x+t}{l-t}}{\aaxn{x}{l}} \right)$$
残ったのは、$A_0$(正)と、年金現価だけで書かれた括弧です。あとは括弧の中が正であることを示せば終わります。
計算基数に直して符号を見る
括弧の中を計算基数 $N$、$D$ で書きます。$\aaxn{x}{n} = (N_x - N_{x+n})/D_x$ を使います。
$$( \ ) = \frac{D_x}{D_{x+t}} \left( \frac{N_{x+t} - N_{x+m}}{N_x - N_{x+m}} - \frac{N_{x+t} - N_{x+l}}{N_x - N_{x+l}} \right)$$
ここで一手工夫します。それぞれの分数の分子に $N_x$ を足して引き、1を作ります。
$$\frac{N_{x+t} - N_{x+m}}{N_x - N_{x+m}} = 1 - \frac{N_x - N_{x+t}}{N_x - N_{x+m}}$$
もう一方も同様に書き直すと、1どうしが打ち消し合って
$$( \ ) = \frac{D_x \left(N_x - N_{x+t}\right)}{D_{x+t}} \left( \frac{1}{N_x - N_{x+l}} - \frac{1}{N_x - N_{x+m}} \right)$$
$N$ は年齢とともに減る量なので、$l < m$ なら $N_{x+l} > N_{x+m}$、したがって $N_x - N_{x+l} < N_x - N_{x+m}$。分母が小さいほうが逆数は大きいので、括弧の中は正です。
前の因子は、$0 < t$ なら $N_x - N_{x+t} > 0$ なので正です。したがって全体が正。つまり
$${}_{t}^{l}V > {}_{t}^{m}V \qquad (0 < t \leq l)$$
払込期間が短いほうが責任準備金は高い、が示せました。
残りの範囲も確かめておきます。$l < t < m$ では、短いほうは払込が終わって ${}_{t}^{l}V = A_t$、長いほうはまだ保険料の現価を引くので ${}_{t}^{l}V - {}_{t}^{m}V = {}_{m}P \cdot \aaxn{x+t}{m-t} > 0$。ここでも短いほうが高い。ただし残りの払込期間が縮むにつれて差は小さくなっていきます。そして $t \geq m$ では両方とも払込が終わり、どちらも $A_t$ で一致します。契約時点 $t=0$ でもどちらも0です。
まとめると、両端(契約時点と両方の払込終了後)では等しく、その間では短いほうが高い、という関係になります。
つまずきポイント:$N$ の大小関係の向き
この証明でいちばん間違えやすいのは、最後の符号判定です。
$N_x$ は $x$ 歳以降の $D$ の累計なので、年齢が上がるほど小さくなります。$l < m$ なら $N_{x+l} > N_{x+m}$。ここで向きを逆に取ると、結論が反対になってしまいます。
$N$ が「これから先の合計」だから年齢とともに減る、という意味を押さえておけば間違えません。記号の大小を暗記するのではなく、量の意味から向きを決めるのが安全です。
この証明が本試験でどう問われるか
一般論そのものが問われることは多くありませんが、この結論は数値問題の検算に使えます。
10年払込と20年払込の責任準備金を計算させる問題で、10年払込のほうが小さく出たら、どこかで計算を間違えています。答えを出したあとに大小関係を確認する習慣を持っておくと、符号の取り違えや代入ミスを拾えます。
証明の技術としては、「共通する部分を文字で置いて差を取ると消える」という手が本体です。この手は第5章の他の証明——生命表を取り替えたときの比較、保険種類を変えたときの比較——でも繰り返し使います。
まとめ
- 「いかなる保険種類でも」を扱う一手は、将来給付の現価を $A_t$ と1文字で置くこと。
- $0 < t \leq l$ で2つの払込期間の責任準備金の差を取ると $A_t$ が消え、年金現価だけの式になる。
- 計算基数に直し、分子に $N_x$ を足し引きして1を作ると、逆数の差の形に整理できる。
- $N$ は年齢とともに減るので $N_x - N_{x+l} < N_x - N_{x+m}$。ここから括弧の中が正と分かる。
- 払込期間中は短いほうが高い。ただし契約時点と両方の払込終了後は一致する。この関係は数値問題の検算に使える。