この記事で扱う証明
終身保険の責任準備金を、2つの違う形で書く証明です。教科書 第5章 練習問題(1)の(2)(4)です。
証明1(2)— 責任準備金は、1年分の責任準備金の「残り」を掛け合わせた形に書ける
$$\resv{t}{x} = 1 - \left(1 - \resv{1}{x}\right)\left(1 - \resv{1}{x+1}\right) \cdots \left(1 - \resv{1}{x+t-1}\right)$$
証明2(4)— 責任準備金は、保険料の差の比としても書ける
$$\resv{t}{x} = \frac{P_x - P^{1}_{x:\angl{t}}}{P^{1}_{x:\angl{t}}}$$
見た目は無関係ですが、どちらも同じ1本の式を経由します。
鍵になる1行
使うのは、終身保険の責任準備金を年金現価で書いた式です。
$$\resv{t}{x} = 1 - \frac{\ddot{a}_{x+t}}{\ddot{a}_{x}}$$
言い換えると、
$$1 - \resv{t}{x} = \frac{\ddot{a}_{x+t}}{\ddot{a}_{x}}$$
意味を取っておきましょう。$\ddot{a}_x$ は契約時点で見た保険料払込期間の年金現価、$\ddot{a}_{x+t}$ は $t$ 年後の時点で見た残りの払込期間の年金現価です。その比は「保険料をあとどれだけ払うか」の割合にあたります。
責任準備金は「すでに積み上がった分」ですから、1から「これから払う分の割合」を引けば出る。この読み方ができると、以下の2つの証明は式変形ですらなくなります。
証明1:掛け合わせると途中が消える
$t = 1$ のときの式を並べます。
$$1 - \resv{1}{x} = \frac{\ddot{a}_{x+1}}{\ddot{a}_{x}}, \qquad 1 - \resv{1}{x+1} = \frac{\ddot{a}_{x+2}}{\ddot{a}_{x+1}}, \qquad \cdots, \qquad 1 - \resv{1}{x+t-1} = \frac{\ddot{a}_{x+t}}{\ddot{a}_{x+t-1}}$$
年齢を1つずつずらしただけです。これらを全部掛けます。
$$\left(1 - \resv{1}{x}\right)\left(1 - \resv{1}{x+1}\right) \cdots \left(1 - \resv{1}{x+t-1}\right) = \frac{\ddot{a}_{x+1}}{\ddot{a}_{x}} \cdot \frac{\ddot{a}_{x+2}}{\ddot{a}_{x+1}} \cdots \frac{\ddot{a}_{x+t}}{\ddot{a}_{x+t-1}}$$
右辺は隣どうしで約分され、両端だけが残ります。
$$= \frac{\ddot{a}_{x+t}}{\ddot{a}_{x}} = 1 - \resv{t}{x}$$
したがって
$$\resv{t}{x} = 1 - \left(1 - \resv{1}{x}\right) \cdots \left(1 - \resv{1}{x+t-1}\right)$$
証明終わりです。掛けて約分する、それだけでした。
意味も読めます。$1 - \resv{1}{x}$ は「1年経ってもまだ積み上がっていない部分の割合」です。それを $t$ 年ぶん掛け合わせると「$t$ 年経ってもまだ積み上がっていない割合」になる。積み上がりを、毎年の「残り」の掛け算として見た式です。
証明2:保険料の分解から極限を取る
証明2は、同じ練習問題の1つ前(3)を経由します。そこでは養老保険について次の式が示されています。
$$P_{x:\angl{n}} = \resv{t}{x:\angl{n}}\, P_{x:\angl{t}} + \left(1 - \resv{t}{x:\angl{n}}\right) P^{1}_{x:\angl{t}}$$
読み方はこうです。$n$ 年満期の養老保険の保険料は、$t$ 年時点までで見ると、すでに積み上がった部分(責任準備金の割合)が $t$ 年満期の養老保険の保険料に、まだ積み上がっていない部分が $t$ 年定期保険の保険料に対応する。責任準備金を重みとした加重平均の形です。
ここで $n \to \infty$ とします。$n$ 年満期の養老保険は終身保険に近づくので、
$$P_x = \resv{t}{x}\, P_{x:\angl{t}} + \left(1 - \resv{t}{x}\right) P^{1}_{x:\angl{t}}$$
$\resv{t}{x}$ について解きます。右辺を整理すると
$$P_x = \resv{t}{x}\left(P_{x:\angl{t}} - P^{1}_{x:\angl{t}}\right) + P^{1}_{x:\angl{t}}$$
したがって
$$\resv{t}{x} = \frac{P_x - P^{1}_{x:\angl{t}}}{P_{x:\angl{t}} - P^{1}_{x:\angl{t}}}$$
ここで、$t$ 年満期の養老保険と $t$ 年定期保険の保険料の差は、生存保険の保険料 $P_{x:\overset{1}{\angl{t}}}$ です(養老保険=定期保険+生存保険という分解から出ます)。これを代入すれば、示すべき式になります。
教科書の解答が「前問で $n \to \infty$ とせよ」の一行で済ませているのは、(3)の式さえ手元にあれば、あとは代入と整理だけだからです。
つまずきポイント:添字の1の位置
この証明で間違えるとすれば、$P_{\overset{1}{x}:\angl{t}}$(定期保険)と $P_{x:\overset{1}{\angl{t}}}$(生存保険)の取り違えです。1が $x$ の上にあれば定期保険、期間を表す $\angl{t}$ の上にあれば生存保険。保険の記号 $\Aterm{x}{t}$・$\Apure{x}{t}$ と同じ約束です。証明2の最後の代入は、この区別が付いていないと成立しません。
記号体系の記事で整理したとおり、生保数理の記号は位置に意味があります。添字の上下・左右が違えば別の商品です。式が合わないときは、まず添字の位置を疑ってください。
この2問が本試験でどう効くか
責任準備金を年金現価の比で書く形($1 - \resv{t}{x} = \ddot{a}_{x+t}/\ddot{a}_x$)は、計算問題で頻繁に使います。数表から $\ddot{a}$ を2つ引いて割るだけで責任準備金が出るので、過去法や将来法の定義式に戻るより速い。
証明1の積の形は、責任準備金の年度ごとの積み上がりを追う問題で効きます。証明2の保険料の比の形は、保険料と責任準備金を行き来する問題で効きます。
どれも「暗記する公式」として並べると3つですが、基本式1本から出ると分かっていれば、覚えるのは1つで済みます。
まとめ
- 終身保険の責任準備金の基本式は $1 - \resv{t}{x} = \ddot{a}_{x+t}/\ddot{a}_x$。「これから払う分の割合」を1から引いた形。
- 積の形(練習問題(2))は、年齢をずらした同じ式を掛けて約分するだけで出る。
- 保険料の比の形((4))は、養老保険の保険料の分解((3))で $n \to \infty$ とすれば出る。
- 添字の1の位置で定期保険と生存保険が分かれる。証明2の代入はこの区別が前提。