この記事で扱う証明
教科書 第12章 練習問題(2)の(2)です。
$$\frac{\aaxn{xy}{n}}{\aaxn{x}{n}} > \frac{\aaxn{y}{n}}{\aann{n}}$$
を証明せよ、という問題です。左辺の $\aaxn{xy}{n}$ は $x$ と $y$ がともに生存している間だけ支払う有期年金、右辺の $\aann{n}$ は生死に関係なく $n$ 年払う確定年金です。
以下では、$x$ と $y$ の将来寿命は互いに独立とします(連生の生存確率を $\npx{t}{xy} = \npx{t}{x}\npx{t}{y}$ と積で書くために要ります)。また、予定利率は正で、支払期間中に $x$ も $y$ も死亡しうる通常の生命表を前提とします。この前提が外れると、後で見るとおり不等号が等号になる場合が出てきます。
両辺が測っているもの
まず、この式が何を比べているかを読みます。
左辺は、$x$ だけの年金に「$y$ も生きていること」という条件を足したときの残り具合です。分子は2人とも生きている場合の年金、分母は $x$ だけの年金。条件を1つ足したぶん分子は小さくなるので、この比は1未満になります。
右辺も同じ構造です。確定年金に「$y$ が生きていること」を足したときの残り具合。
つまり両辺とも、$y$ の生存条件を足したときの目減りの度合いを測っています。違いは、条件を足す前の年金が何かという点だけ。左辺は $x$ の生存年金、右辺は確定年金です。
主張は「左辺のほうが大きい」。同じ $y$ の条件を足すのに、$x$ の生存年金に足すほうが目減りが小さい、と言っています。
使う道具:第6章の予備定理
証明には、教科書の第6章§1にある予備定理を使います。計算基礎の変更が保険価格に及ぼす影響を調べるために置かれた定理で、内容は数列の加重平均についての一般論です。
3つの数列 $f_j$、$g_j$、$h_j$($j = 1, \dots, n$)があり、$g_j \geq 0$、$h_j \geq 0$、そして $f_j$ が単調減少とします。このとき、部分和の比について
$$\frac{\sum_{j=1}^{t} g_j}{\sum_{j=1}^{n} g_j} \geq \frac{\sum_{j=1}^{t} h_j}{\sum_{j=1}^{n} h_j} \qquad (t < n)$$
が成り立てば
$$\frac{\sum_{j=1}^{n} f_j g_j}{\sum_{j=1}^{n} g_j} \geq \frac{\sum_{j=1}^{n} f_j h_j}{\sum_{j=1}^{n} h_j}$$
が成り立つ、というものです。
言葉にすると単純です。$f$ を加重平均するとき、重みが前のほうに寄っている $g$ を使うほうが、平均は大きくなる。$f$ が単調減少なのだから、前のほうに重みを置けば大きい値を多く拾える——それだけのことです。
条件式は「$g$ のほうが $h$ より重みが前に寄っている」を、部分和の比で表現したものです。
数列を選ぶ
あとは、この定理に当てはめる3つの数列を決めます。ここが唯一の工夫どころです。
$$g_j = v^{j-1}\, \npx{j-1}{x}, \qquad h_j = v^{j-1}, \qquad f_j = \npx{j-1}{y}$$
$f_j$ は $y$ の生存確率なので、$j$ が増えれば減ります。定理が要求するのは単調非増加なので、条件はこれで満たされます。
$g_j$ は $x$ の生存年金の各項、$h_j$ は確定年金の各項です。合計を取ると
$$\sum_{j=1}^{n} g_j = \aaxn{x}{n}, \qquad \sum_{j=1}^{n} h_j = \aann{n}$$
そして $f_j g_j = v^{j-1}\npx{j-1}{x}\npx{j-1}{y} = v^{j-1}\npx{j-1}{xy}$ なので
$$\sum_{j=1}^{n} f_j g_j = \aaxn{xy}{n}, \qquad \sum_{j=1}^{n} f_j h_j = \aaxn{y}{n}$$
示すべき不等式が、そのまま定理の結論の形になりました。
条件の確認
残るは、部分和の比の条件です。この場合は
$$\frac{\sum_{j=1}^{t} g_j}{\sum_{j=1}^{n} g_j} = \frac{\aaxn{x}{t}}{\aaxn{x}{n}}, \qquad \frac{\sum_{j=1}^{t} h_j}{\sum_{j=1}^{n} h_j} = \frac{\aann{t}}{\aann{n}}$$
なので、確かめるべきは
$$\frac{\aaxn{x}{t}}{\aaxn{x}{n}} > \frac{\aann{t}}{\aann{n}} \qquad (t < n)$$
これは教科書の第6章で、同じ定理から導かれている不等式です(予定利率が正なら $\aann{t}/\aann{n} > t/n$ という続きもあります。利率が0なら等号です)。
意味は読めます。生存年金は、年齢が上がるにつれて各項が小さくなるので、確定年金より重みが前に寄っている。だから最初の $t$ 年ぶんが全体に占める割合は、生存年金のほうが大きい。
条件が満たされたので、定理の結論が成り立ちます。
$$\frac{\aaxn{xy}{n}}{\aaxn{x}{n}} \geq \frac{\aaxn{y}{n}}{\aann{n}}$$
定理そのものが与えるのは等号を含む形です。厳密な不等号になるのは、$f_j$ が実際に減っていて、かつ部分和の比の条件が等号でないとき——つまり支払期間中に $x$ も $y$ も死亡しうるとき——です。通常の生命表ではこれが成り立つので
$$\frac{\aaxn{xy}{n}}{\aaxn{x}{n}} > \frac{\aaxn{y}{n}}{\aann{n}}$$
となります。逆に、支払期間中どちらも絶対に死なない極端な設定では4つの年金がすべて等しくなり、両辺とも1で等号です。証明終わりです。
結論を一言で言うと
この証明が言っているのは、次のことです。
$y$ の生存条件を足すと年金は目減りしますが、その目減りの度合いは、条件を足す前の年金の重みがどこに寄っているかで変わる。重みが前に寄っている年金ほど、目減りは小さい。$y$ の生存確率は後ろへ行くほど小さいので、後ろの重みが軽い年金は打撃が少ないからです。
$x$ の生存年金は、確定年金より重みが前に寄っている。だから $y$ の条件を足したときの目減りが小さい——これが結論の中身です。
分母を払った形
$$\aaxn{xy}{n} \cdot \aann{n} > \aaxn{x}{n} \cdot \aaxn{y}{n}$$
で覚えておくと、正誤問題で使いやすくなります。連生年金は、2つの単生年金を素朴に掛け合わせて確定年金で割った値より大きい。「思ったほど減らない」というのが、この不等式の言いたいことです。
つまずきポイント:どちらが $f$ でどちらが $g$ か
この型の証明で迷うのは、3つの数列の役割分担です。
単調性が要求されるのは $f$ です。だから「後から足す条件」を $f$ に置く。ここでは $y$ の生存確率が後から足す条件なので $f_j = \npx{j-1}{y}$。残りの2つ、$g$ と $h$ は「条件を足す前の2つの年金」に対応します。
役割を取り違えると、単調性の確認ができずに止まります。何を後から足すのかを最初に決めるのが、この型の入口です。
まとめ
- 示す式は、$y$ の生存条件を足したときの目減りの度合いを、2つの状況で比べたもの。
- 使うのは第6章§1の予備定理。単調減少な $f$ を加重平均するとき、重みが前に寄った $g$ のほうが平均は大きくなる、という一般論。
- 数列の置き方は $g_j = v^{j-1}\npx{j-1}{x}$、$h_j = v^{j-1}$、$f_j = \npx{j-1}{y}$。後から足す条件を $f$ に置くのが定石。
- 条件式は $\aaxn{x}{t}/\aaxn{x}{n} > \aann{t}/\aann{n}$。生存年金は確定年金より重みが前に寄っている、ということ。
- 定理が与えるのは $\geq$。厳密な $>$ になるのは、支払期間中に $x$ も $y$ も死亡しうる通常の生命表の場合。
- 分母を払うと $\aaxn{xy}{n}\aann{n} > \aaxn{x}{n}\aaxn{y}{n}$。この形で覚えると使いやすい。