この記事の数え方
アクチュアリー受験研究会が毎年開いているキックオフミーティングでは、前年度の試験に合格した人が発表を行います。その発表資料のうち、数学に関する2021〜2025年度試験の5年度分、9件を読みました。
先に断っておくことが3つあります。
母数が9件しかなく、登壇者の選ばれ方にも偏りがあるので、平均や中央値を出してもそれを合格者一般に広げることはできません。この記事では、資料の性質に合わせて「9件中何件」という形だけで書きます。
発表者は登壇した合格者であって、全合格者から無作為に選ばれた人ではありません。学習法を人前で話せる程度に整理できている人、受験研究会を活用している人に偏ります。ここから「合格者の9割は」といった一般化はできません。
そして、個々の発表内容は引用しません。分類し、こちらの言葉で書き直したものだけを載せます。
9件すべてに共通していたこと
学習のやり方の面では、過去問演習を軸に据えている点が9件で完全に一致しました。
これは当たり前に見えて、当たり前ではありません。9件の属性は大きく違います。数理系学科の学生が4件、情報系や他分野の学生が1件、社会人が4件。初受験で合格した人が2件ある一方、複数年かけた人が3件あり、そのうち1件は6年度にわたって受験しています。
数学が得意だと自己申告している人も、苦手意識があったと書いている人もいます。それでも過去問だけは全員が中心に置いていました。
もう1つ、9件中9件が挙げていた教材があります。合格へのストラテジー 数学です。傾向をつかむために過去問の前に一周する、計算のショートカットを学ぶ、モデリング分野の理解に使う、と用途はさまざまですが、名前は全件に出てきました。
教材の組み合わせには型がある
9件が挙げた教材を集計すると、次のようになります。
| 教材・環境 | 言及件数 |
|---|---|
| 過去問 | 9/9 |
| 合格へのストラテジー | 9/9 |
| 指定教科書 | 5/9 |
| 弱点克服 大学生の確率・統計 | 4/9 |
| レベルチェックテスト・模試 | 4/9 |
| 受験研究会の勉強会・情報交換 | 4/9 |
| 暗記ノート・公式集の自作 | 3/9 |
| ゼミ・勉強会への参加 | 2/9 |
指定教科書が5/9にとどまっているのが目を引きます。通読した人もいますが、辞書のように必要な箇所だけ引いたという記述や、勉強会で眺める程度という記述もありました。指定演習書を最初から最後まで解いたという形は、9件の中では主流ではありません。
代わりに、市販の問題集で分野別に手を動かしてから過去問に入る流れが目立ちます。確率分野は弱点克服で固め、統計分野は別の入門書で補い、モデリングはストラテジーで基礎を作る、という分担が複数件で共通していました。指定教科書のモデリングより市販書のほうが分かりやすかった、と書いている件もあります。
自作の暗記ノートを作った人が3/9件。うち1件は、月に2回以上そのノートを一周する運用を続けていました。
学習の時系列
9件のスケジュールを重ねると、季節ごとの重心が見えてきます。
| 時期 | 多くの件で行われていたこと |
|---|---|
| 年明けから春 | 学習開始。大学数学や統計の基礎、指定教科書の通読 |
| 初夏 | 分野別の問題集。弱点克服やストラテジーで型を作る |
| 夏の終わりから秋 | 過去問に入る。1周目は解けなくてよいとする件が複数 |
| 秋から試験まで | 過去問の反復。時間を計って通しで解く |
開始時期は幅があります。年明けから始めた件がある一方、試験の3、4か月前から始めて合格した件もあります。ただし後者は、複数年かけて2年目に合格した件で、前年の蓄積の上に立っています。
過去問に入る時期は、9件の中では夏の終わりから秋に集中していました。それより前に過去問へ入った件では、1周目の出来が悪くて構わないと割り切る記述が見られます。
過去問の量は、思ったより一致していない
9件のうち周回数や年数を明記していたのは6件でした。数字を並べます。
| 件 | 過去問の量 |
|---|---|
| A | 16年分を2周、その後さらに直近10年分をやり込み |
| B | ワークブックを0.9周した年は不合格、2周した年に合格 |
| C | 15年分を2周、直近7年分はさらに3周 |
| D | 平成初期まで遡って約30年分 |
| E | 過去問を2.5回、演習問題を1.5回、教科書を0.5回 |
| F | 約25年分を10回。それでも複数年にわたって不合格 |
DとFの対比が示すことは重要です。Dは30年分を解いて合格しましたが、Fは25年分を10回解いても数年にわたって合格に届きませんでした。回数を増やせば受かる、という単純な関係にはなっていません。
Eの「2.5回」「1.5回」「0.5回」という書き方も示唆的です。教材ごとに投下する回数を最初から変えており、教科書は目を通す程度と決めています。全部を同じ濃さでやろうとしていません。
量そのものより、何を潰せたかを管理していたかどうかが分かれ目に見えます。この点は続きの分析記事で扱います。
時間配分の目安
本番の時間の使い方について、具体的な数字を書いていた件が3件ありました。いずれも180分・100点満点を前提としています。
- 小問は1問あたり7分から8分、大問は1問あたり15分から20分を目標にする
- 初めて見る問題なら150分で80点、一度解いたことがある問題なら120分で90点を目安に演習する
- 小問で60点中40点、大問で40点中20点を基本線とし、大問で25点まで伸ばせると楽になる
3件目の考え方は、配点構成から逆算したものです。CBT移行後の構成では問題1と問題2が1問5点の小問集合で、合わせて40点から55点を占めます(それ以前は問題1だけで小問60点でした)。小問を固めたうえで大問をどこまで取るか、という設計になります。
満点を前提にしない、という記述も複数件にありました。1件は、初めて見る形式の問題は最初から捨てる前提で90点満点として戦略を立てる、と書いています。この考え方には反対の立場もあり、そちらは続きの分析記事で扱います。
数字で出せなかったこと
正直に書いておきます。当初は学習時間と受験回数の分布を出す予定でしたが、できませんでした。
9件のうち、総学習時間や1日あたりの学習時間を数字で書いていたのは1件だけです。その1件は、1科目あたり200時間から300時間が目安と言われていること、自分は1日平均3時間ほど勉強していたことを記していました。ただし1件では分布になりません。
何回目の受験で合格したかを明記していた件も、9件中ほとんどありませんでした。受験歴を年度で並べている件からは読み取れますが、書き方が揃っていないため、集計できる形にはなっていません。
発表資料は「総学習時間は何時間でした」という形ではなく、「何月に何をした」という時系列で語る形式が主流だからです。時間の総量を知りたい場合、この資料群からは得られません。
まとめ
- 数学の合格体験談9件で完全に一致したのは、過去問演習を軸に据えること。属性も教材も学習期間もばらばらだった。
- 合格へのストラテジーも9/9件で言及があった。一方、指定教科書は5/9件にとどまる。
- 過去問の量は16年分2周から25年分10回まで幅があり、多いほど有利とは限らない。25年分を10回解いて複数年不合格だった件がある。
- 本番の目安は、小問1問7分から8分、大問1問15分から20分。小問で40点、大問で20点が基本線という設計が挙がっていた。
- 学習時間の総量を書いていたのは9件中1件のみ。この資料群から時間の分布は出せない。