この記事の数え方
前編にあたる分析記事と同じく、アクチュアリー受験研究会のキックオフミーティングで発表された数学の合格体験談、2021〜2025年度試験の5年度分・9件を読んで分類したものです。
母数は9件です。発表者は登壇した合格者であり、全合格者から無作為に選ばれたわけではありません。個々の発表内容は引用せず、分類してこちらの言葉で書き直しています。
前編では、9件すべてが過去問演習を軸にしていたこと、しかし周回数には大きな幅があったことを見ました。この記事では、その幅がどこから来ているのかを見ます。
つまずきは4つに分かれた
9件の記述を分類すると、語られているつまずきは次の4種類でした。
| つまずき | 言及件数 |
|---|---|
| 過去問の反復だけでは足りない(初めて見る形式への対応) | 5/9 |
| 覚える対象と量が定まらない | 6/9 |
| 学習の計画が立たない、続かない | 5/9 |
| 本番でのミスと時間切れ | 3/9 |
順に見ます。
つまずき1:過去問は解けるのに、本番で崩れる
もっとも重い形です。
ある発表者は、指定教科書とストラテジーとタクティクスを通読し、過去問を約25年分、10回程度解いていました。それでも数年にわたって不合格が続いています。数学検定1級と統計検定1級を持ち、他の難関資格にも合格している人です。少なくとも、演習の量や数学の素養だけでは説明のつかない不合格です。
別の発表者は、原因を言葉にしています。近年の出題を3つに分けると、過去に出た難テーマ、既出範囲の応用、そして完全に初めて見る形式になる。1つ目は演習で取れる。2つ目は本質の理解が要る。3つ目は過去問をいくら回しても出てきません。
この発表者は、初めて見る形式の問題として、ウェルチの検定、イェーツの補正、F分布の密度関数、ARMA(1,1)モデルといった具体名を挙げていました。いずれも指定教材の隅にはあるが過去問には出ていない、という位置にある論点です。
対策として挙がっていたのは、網羅率という考え方でした。過去問を解けるようにするのではなく、過去問に出ていない範囲まで含めて、出題されうる論点を潰していく。1件は、そのために過去問の年数を平成初期まで遡り、約30年分に広げていました。
つまずき2:どこまで覚えればよいのか分からない
9件中6件が暗記に触れていました。「数学は暗記だ」と書いている件、「公式が多いので割と暗記ゲーなところがある」と書いている件があります。
問題は、覚える対象の線引きです。1件がその線を具体的に示していました。合格者の平均的な水準として挙げていたのは、次のような範囲です。
- 対数正規分布、t分布、F分布の確率密度関数と期待値・分散、コーシー分布の確率密度関数(期待値・分散は存在しない、という性質も含めて)
- 分布どうしの関係、とくにベータ分布が他の分布とどうつながるか
- 2つの確率変数の合成と変換の手順
- 各推定量の性質、仮説と第1種・第2種の誤り、最尤法、検出力の定義
- 区間推定を、母数が既知か未知か、精密法か大標本法かで場合分けできること
- 適合度検定と独立性の検定、イェーツの補正、尤度比検定
- 順序統計量、とくにベータ分布との関係
- モデリングは、ストラテジーに載っている範囲に加えてARMAの反転可能性と識別可能性
分布の確率密度関数まで書ける必要がある、という水準です。この範囲を自作の暗記ノートにまとめ、月2回以上のペースで一周する運用をしていたのが3/9件でした。
覚え間違いへの警告もありました。分布関数の記号のmとnを取り違える、検定のnとNを混同する。こうした思い込みは演習では表面化せず、本番で失点につながる、という指摘です。
つまずき3:計画が立たない、続かない
9件中5件が学習計画に触れていました。
社会人の1件は、学習に入る前の準備を4段階に分けていました。資格取得の目的と目標に加えて、撤退条件をあらかじめ決めておく。学習計画を立てる。学習を推進する要素を集める。学習を阻害する要素を排除する。とくに撤退条件を先に決めておくという発想は、他の件には見られないものでした。
学習時間の見積もりについて、体感の2倍に設定するという記述もあります。復習の時間と、理解に詰まって止まる時間を織り込むためです。
継続については、モチベーションに頼らず習慣化するしかない、と書いている件がありました。就職活動と並行していた学生の件です。同じ件は、勉強できる仲間が身近にいなかったため受験研究会を活用した、とも書いています。仲間や情報交換に触れていたのは3/9件でした。
つまずき4:本番でのミス
3/9件が本番での失敗を具体的に書いていました。もっとも詳しかった1件は、手応えと結果が食い違った原因を3つ挙げています。
導出の式に誤りがあるのに、たまたま選択肢に近い値があったため正解になってしまい、実力を測り違えた。数式の穴埋めをした後、埋めた状態をメモ用紙に写さなかったため、見直しができなかった。導出を書かず、問題文の文脈から答えを類推した。
3つ目は具体的です。正規分布表を使う指示がないことから、答えは0.50だろうと推測した、という例が挙がっていました。当てにいく判断が働いた結果です。
時間の使い方については、解く順序を決めていた件があります。全体を見渡してから解きやすい大問を先に取り、手強い問題は後回しにする。手が止まったら最初の一部だけ埋めて次へ移る。第1次試験はCBT方式で画面上を行き来できるので、飛ばして戻る動きが取りやすくなっています。
意見が割れた点:初めて見る形式の問題をどう扱うか
9件を読んでいて、はっきり対立している論点が1つありました。
一方の立場は、切り捨てるというものです。すべての問題が既知の範囲から出るわけではないので、100点満点で戦略を立てないほうがよい。実質85点から90点満点と考え、初めて見る形式は最後に回して、埋まらなければそれでよいとする。合格点は60点なのだから、それで足ります。
もう一方の立場は、予想して潰すというものです。出題は資格試験要領の範囲の中から行われ、過去問と傾向の連続性がある。だとすれば、まだ出ていない論点、既出問題をひねった形、他科目から持ち込まれた論点、といった切り口で出題を予想できる——そう考えて実際に予想を立て、それを踏まえた参考書を通読したという件がありました。
どちらが正しいという話ではありません。前者は9件中で複数年かけずに合格した件、後者は複数年かけて合格した件から出ています。かけられる時間が違えば、取るべき戦略も変わります。
決めておくべきなのは、自分がどちらを選ぶかです。両方を中途半端にやると、捨てるはずの問題に時間を使い、予想するはずの範囲も潰しきれません。
分かれ目は周回数ではなかった
過去問の量は、9件の中で16年分2周から25年分10回まで開いていました。9件を並べて読むと、量そのものより管理の仕方に差があります。
解けなかった問題を記録して分類していた件があります。間違えた問題を画像で残してデータベースに貼り付け、解けない問題、手を動かせば解ける問題、見た瞬間に解法が浮かぶ問題、の3段階に分けていました。パソコンでもスマートフォンでも見られるようにして、隙間時間で潰していく運用です。
別の件は、問題を確率分布とテーマと設定で正規化して整理していました。年度順に並んでいる過去問を、論点の軸で並べ替えるという発想です。同じ型の問題が年度をまたいで散らばっているので、揃えないと自分がどの型で落としているのかが見えません。
一方、周回数だけを増やして合格に届かなかった件では、通読と一通りの実施を繰り返した、という書き方になっていました。何が潰せていないかを特定する仕組みが記述に出てきません。
同じ問題を10回解いても、解けるようになった問題を10回解き直しているだけなら、解けない問題は10回とも解けないままです。
まとめ
- つまずきは4つに分かれた。初めて見る形式への対応5/9件、暗記の範囲6/9件、計画と継続5/9件、本番のミス3/9件。
- 過去問を約25年分10回解いても数年にわたって不合格だった件がある。量と合否は単純に対応していない。
- 覚える範囲を具体的に線引きした件があり、分布の密度関数を書けることまでを合格者の平均水準としていた。
- 初めて見る形式の問題を捨てるか、予想して潰すかで立場が割れた。かけられる時間で選ぶ。どちらも中途半端にしない。
- 分かれ目は周回数ではなく、解けなかった問題を記録して分類していたかどうかに見える。