その名前をどこで見るか
チーレの微分方程式として出てきます。教科書では上巻・責任準備金の章の練習問題に、証明問題として置かれています(表記はチーレともティーレとも書かれます。教科書の索引はティーレです)。
主張はこうです。連続払いの設定で、時点 $t$ の責任準備金を $V_t$ とすると、
$$\frac{dV_t}{dt} = \delta V_t + P_t - (S_t - V_t)\,\mu_{x+t}$$
という形の微分方程式が成り立ちます($P_t$ は保険料収入の率、$S_t$ は保険金、$\mu$ は死力。教科書の練習問題では事業費 $E_t$ の項も入った形で出題されており、記号の細部は問題の設定で変わります)。
読み方は収支の言葉でそのままです。責任準備金は、利息 $\delta V_t$ で増え、入ってくる保険料 $P_t$ で増え、死亡が起きたときに追加で必要になる正味の支払い $(S_t - V_t)$ の発生率ぶんだけ減る。責任準備金の再帰式(1年刻みの漸化式)を、刻み幅ゼロの極限にしたものと言ってもかまいません。
どんな人だったか
チーレ(T. N. Thiele)は19世紀デンマークの人で、本業は天文学者です。天文台で観測データの誤差を扱ううちに統計学へ深く踏み込み、さらに生命保険会社の設立に関わって保険数理の仕事もした、という三足のわらじの人でした。
統計学での有名な業績が、キュムラント(半不変量)の考案です。積率母関数の対数を微分して作る量で、数学の歪度・尖度の記事で使った $C^{(3)}(0)$、$C^{(4)}(0)$ はまさにチーレの発明品です。数学の科目で使う道具と生保数理の責任準備金が、同じ人の仕事だというのは覚えておいて損のない偶然です。
なぜその概念が必要になったか
責任準備金の再帰式は、1年ごとの収支を追うには十分です。しかし「準備金が時間の中でどう動いているか」——どの瞬間に何が効いて増減しているのか——は、1年刻みでは見えません。
微分方程式の形にすると、死亡だけを脱退事由とするこの単純な設定では、責任準備金の変化が「利息」「保険料」「危険保険金 $(S_t - V_t)$ の発生」という3つの項に分解されます(事業費や解約を考える一般形では、対応する項がさらに加わります)。この分解は、保険料の内訳(貯蓄保険料と危険保険料)や、責任準備金の利源分析といった、後の章・実務の考え方の土台になっています。試験で名前が出なくても、この見方そのものは繰り返し使われます。
試験ではこう出る
過去問26年分で、チーレ(ティーレ)という名前そのものは登場していません。出るのは中身のほうです。
- 責任準備金の再帰式を立てて、純保険料の分解(貯蓄保険料・危険保険料)につなげる形
- 連続時間の設定で、責任準備金の変化率や微分方程式の各項の意味を問う形
- 教科書の練習問題どおり、微分方程式そのものを導出させる証明の形
対策は、公式暗記ではなく導出の再現です。将来法の責任準備金の定義から出発して、微小時間 $\varepsilon$ の収支を書き、極限を取る。一度自分の手で通しておくと、再帰式・保険料分解・利源分析が全部同じ絵に見えてきます。
まとめ
- チーレは19世紀デンマークの天文学者で、保険数理と統計学にも大きな足跡を残した。キュムラントの考案者。
- チーレの微分方程式は、責任準備金の変化を利息・保険料・危険保険金の3項に分解する式。再帰式の連続時間版。
- 名前は過去問に出ないが、再帰式・保険料の分解・利源分析として中身は繰り返し出ている。教科書では責任準備金の章の証明問題。
- 対策は導出の再現。定義から微小時間の収支を書いて極限を取る手順を、一度手で通しておく。