どんな本か
『生命保険数理』(黒田耕嗣、日本評論社、2016)は、大学の確率論の言葉で生保数理を構成し直した教科書です。「アクチュアリー数学シリーズ」の1冊として書かれており、タクティクス生保数理の巻末参考文献では、指定教科書・参考書とは区別したうえで「試験勉強に役立つ参考書」として挙げられています。
指定教科書『生命保険数学』の主な道具は、現価率と計算基数、そして期待現価どうしを等しく置く収支相等です。期待値を取ったあとの世界を表で計算するので、確率変数が正面に出てくるのは、生命年金現価の確率論的表示(上巻の後半)や責任準備金の考察など、一部の節に限られます。この本はその逆で、余命を確率変数として置くところから始めて、給付現価の期待値・分散という順で体系を積み上げます。
教科書の「確率論的表示」でつまずく人のための本
この本がいちばん効く読者は、教科書の確率論的表示の節や、それを源流とする試験の大問でつまずいた人です。
生保数理の試験は、現価の期待値(=いわゆる一時払純保険料)だけでなく、現価の分散や、確率変数どうしの関係を問う出題があります。ここでは、$\bar{a}_{x}$ のような記号を「表から引く数値」としてではなく、「余命 $T$ の関数である確率変数の期待値」として扱えるかどうかが分かれ目になります。
教科書はこの見方を簡潔にしか展開しないので、確率統計の基礎がある人でも接続に戸惑うことがあります。この本は最初からその言葉で書かれているため、数学(確率・統計)を先に仕上げた受験者にとっては、むしろ自然に読める生保数理になっています。
タクティクス本文からの参照は0か所
この連載では、参考書の役割をタクティクス本文からの参照で測ってきました。この本への本文参照は0か所で、登場は巻末参考文献のみです。
これは山内『生命保険数学の基礎』(参照2か所)との役割の違いを示しています。山内本が演習中に「式の意味の絵」を借りに行く先なのに対し、この本は体系を別の言葉で読み直す本で、演習の途中でつまみ食いする作りではありません。読むなら論点単位ではなく、確率論的な見方が必要になった段階で、該当する章をまとめて読むのが合っています。
どの段階で使うと効くか
優先度は、指定教科書・過去問・タクティクスより後です。そのうえで、次のどちらかに当てはまるなら検討する価値があります。
- 数学(確率・統計)を合格済みで、その言葉のまま生保数理を理解したい人
- 現価の分散や確率論的表示の大問で、毎回その場しのぎになっていると感じる人
逆に、生保数理が初めてで計算基数にもまだ慣れていない段階では、この本から入ると遠回りです。まず教科書と演習で「表の世界」を作り、その裏側を確かめたくなってからが出番です。
ライブラリーの該当ページ
この本は、書籍ライブラリーのアクチュアリー第1次試験の参考書に「生保数理」として登録してあります。書名のリンクからAmazonの該当ページに移動できます。
まとめ
- 『生命保険数理』(黒田耕嗣)は、余命を確率変数として置くところから生保数理を組み立て直した本。タクティクス巻末で「試験勉強に役立つ参考書」として挙げられている。
- 効くのは、現価の分散や確率論的表示の出題で苦しむ人と、数学合格済みで確率論の言葉のまま生保数理を読みたい人。
- タクティクス本文からの参照は0か所。演習中に引く辞書ではなく、必要になった段階で章単位で読む本。
- 初学の段階では教科書+演習が先。「表の世界」ができてから、その裏側を確かめる本として使う。