この記事で扱う証明
教科書 第12章 練習問題(1)の(11)です。2つの式を示します。
以下では、$x$ と $y$ の将来寿命は互いに独立とし、死力を使う連続時間のモデルを前提にします(同時に死ぬ確率は0)。第12章の標準的な設定です。この前提が外れると最後の積の形は成り立たなくなるので、証明のどこで独立性を使っているかは意識しながら読んでください。
(a)連生(どちらかが先に死ぬ)の死亡確率について
$$\nqx{t}{xy} = \nqx{t}{\overset{1}{x}y} + \nqx{t}{x\overset{1}{y}} = \nqx{t}{x} + \nqx{t}{y} - \nqx{t}{x}\,\nqx{t}{y}$$
(b)最終生存者(2人とも死ぬ)の死亡確率について
$$\nqx{t}{\overline{xy}} = \nqx{t}{\overset{2}{x}y} + \nqx{t}{x\overset{2}{y}} = \nqx{t}{x} + \nqx{t}{y} - \nqx{t}{xy}$$
まず記号を読む
証明の前に、記号の意味を確認します。第12章でつまずく人の多くは、計算ではなくここで止まっています。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| $\nqx{t}{xy}$ | $t$ 年以内に、2人のうちどちらか一方が死ぬ確率(連生の死亡) |
| $\nqx{t}{\overline{xy}}$ | 最終生存者状態が $t$ 年以内に消滅する確率、つまり2人とも死ぬ確率 |
| $\nqx{t}{\overset{1}{x}y}$ | $t$ 年以内に $x$ が死に、しかもそれが1番目($y$ より先)である確率 |
| $\nqx{t}{\overset{2}{x}y}$ | $t$ 年以内に $x$ が死に、しかもそれが2番目($y$ より後)である確率 |
上に乗っている小さい数字は、その人が何番目に死んだかを表します。1なら先、2なら後。
上線 $\overline{xy}$ は最終生存者状態——「少なくとも一方が生きている状態」——を指す記号です。この状態が消滅するのは2人とも死んだときなので、$\nqx{t}{\overline{xy}}$ が「2人とも死ぬ確率」になります。「上線は両方」と覚えると $\npx{t}{\overline{xy}}$ を「両方生きている確率」と読み違えます。これは最終生存者状態が続く確率、つまり「少なくとも一方が生きている確率」です。状態のほうに名前が付いている、と押さえてください。
この読み方さえ持てば、示すべき式は自然に見えてきます。(a)は「どちらかが死ぬ」を「$x$ が先に死ぬ」と「$y$ が先に死ぬ」に割り振っただけ。(b)は「両方死ぬ」を「$x$ が後」と「$y$ が後」に割り振っただけです。
証明(a):死力の和に分解する
積分で示します。連生の死亡確率は、連生の死力を使って
$$\nqx{t}{xy} = \int_{0}^{t} \npx{s}{xy}\, \mu_{x+s,\, y+s}\, ds$$
と書けます。$\mu_{x+s,y+s}$ は連生の死力、つまり「2人とも生きている状態から、どちらかが死ぬ」瞬間の強さです。
独立性の仮定から、この死力はそれぞれの死力の和になります。
$$\mu_{x+s,\, y+s} = \mu_{x+s} + \mu_{y+s}$$
メーカムの法則の記事で使ったのと同じ関係です。代入して積分を2つに分けます。
$$\nqx{t}{xy} = \int_{0}^{t} \npx{s}{xy}\, \mu_{x+s}\, ds + \int_{0}^{t} \npx{s}{xy}\, \mu_{y+s}\, ds$$
第1項の中身を読みます。「時点 $s$ まで2人とも生きていて($\npx{s}{xy}$)、その瞬間に $x$ が死ぬ($\mu_{x+s}$)」。これはまさに $x$ が1番目に死ぬ確率、$\nqx{t}{\overset{1}{x}y}$ です。第2項は $y$ が1番目に死ぬ確率。したがって
$$\nqx{t}{xy} = \nqx{t}{\overset{1}{x}y} + \nqx{t}{x\overset{1}{y}}$$
前半が示せました。
証明(a)の後半:排反な場合分けで書き換える
後半の $\nqx{t}{x} + \nqx{t}{y} - \nqx{t}{x}\nqx{t}{y}$ は、別の道から出ます。
$x$ が1番目に死ぬ確率を、順序を意識せずに書き直します。「$x$ が $t$ 年以内に死ぬ」を場合分けすると、$y$ より先か後かのどちらかです。ここで教科書の別の関係を使うと
$$\nqx{t}{\overset{1}{x}y} + \nqx{t}{x\overset{1}{y}} = \nqx{t}{x} + \npx{t}{x}\,\nqx{t}{y}$$
右辺の読み方はこうです。第1項は「$x$ が死ぬ」場合すべて。第2項は「$x$ は生き残ったが $y$ が死ぬ」場合。この2つで「どちらかが死ぬ」を漏れなく重複なく数えています。
あとは $\npx{t}{x} = 1 - \nqx{t}{x}$ を代入して展開するだけです。
$$= \nqx{t}{x} + \left(1 - \nqx{t}{x}\right)\nqx{t}{y} = \nqx{t}{x} + \nqx{t}{y} - \nqx{t}{x}\,\nqx{t}{y}$$
見慣れた形になりました。「$A$ または $B$ が起きる確率 = $P(A) + P(B) - P(A)P(B)$」、独立な2事象の和事象の確率です。連生の死亡確率とは、要するにこれでした。
証明(b):最終生存者は「2番目」の割り振り
(b)も同じ構造です。最終生存者の死力を使うと
$$\nqx{t}{\overline{xy}} = \int_{0}^{t} \npx{s}{\overline{xy}}\, \mu_{\overline{x+s,\, y+s}}\, ds = \int_{0}^{t} \left(\nqx{s}{y}\,\npx{s}{x}\,\mu_{x+s} + \nqx{s}{x}\,\npx{s}{y}\,\mu_{y+s}\right) ds$$
中身を読みます。第1項は「$y$ はすでに死んでいて($\nqx{s}{y}$)、$x$ は生きていて($\npx{s}{x}$)、その瞬間に $x$ が死ぬ($\mu_{x+s}$)」。$x$ が2番目に死ぬ確率です。第2項は $y$ が2番目。したがって
$$\nqx{t}{\overline{xy}} = \nqx{t}{\overset{2}{x}y} + \nqx{t}{x\overset{2}{y}}$$
後半は、(a)の結果を使えば1行です。「$x$ が死ぬ」と「$y$ が死ぬ」を足すと、1番目の死亡と2番目の死亡を全部数えたことになるので
$$\nqx{t}{x} + \nqx{t}{y} = \left(\nqx{t}{\overset{1}{x}y} + \nqx{t}{x\overset{1}{y}}\right) + \left(\nqx{t}{\overset{2}{x}y} + \nqx{t}{x\overset{2}{y}}\right) = \nqx{t}{xy} + \nqx{t}{\overline{xy}}$$
移項すれば
$$\nqx{t}{\overline{xy}} = \nqx{t}{x} + \nqx{t}{y} - \nqx{t}{xy}$$
証明終わりです。
全体を貫く1本の関係
最後の式変形が、この記事でいちばん大事な部分です。
$$\nqx{t}{xy} + \nqx{t}{\overline{xy}} = \nqx{t}{x} + \nqx{t}{y}$$
連生の死亡確率と最終生存者の死亡確率を足すと、個々の死亡確率の和になる。これは第12章を通じて何度も使う関係で、年金や保険の現価についても同じ形が成り立ちます。
$$\ddot{a}_{xy} + \ddot{a}_{\overline{xy}} = \ddot{a}_{x} + \ddot{a}_{y}, \qquad A_{xy} + A_{\overline{xy}} = A_{x} + A_{y}$$
理由は単純で、どちらの式も「1番目の死亡と2番目の死亡を、両方数える」ことを言っているだけだからです。連生と最終生存者は、同じものを裏表から見た関係にあります。片方が分かればもう片方も出る。第12章の計算量を半分にできる関係です。
つまずきポイント:$\nqx{t}{xy}$ と $\nqx{t}{\overline{xy}}$ の混同
この2つは、上線があるかないかだけの違いなので、取り違えると答えが根本から変わります。
上線なしの $\nqx{t}{xy}$ は「どちらかが死ぬ」、上線ありの $\nqx{t}{\overline{xy}}$ は「両方死ぬ」。確率の大小で言えば、必ず $\nqx{t}{xy} \geq \nqx{t}{\overline{xy}}$ です。計算結果がこの向きに反したら、記号を取り違えています。
記号体系の記事で整理したとおり、生保数理の記号は飾りに意味を持たせます。上線・上添字の1と2・添字の順序。第12章はこの原則がいちばん濃く出る章なので、記号を読む練習をそのまま計算力に変えられます。
まとめ
- 上添字の1は「1番目に死ぬ」、2は「2番目に死ぬ」。上線は最終生存者状態(少なくとも一方が生存)を表す記号で、その消滅が「2人とも死ぬ」に当たる。
- 以上はすべて2人の寿命が独立という前提の下。連生の死亡確率は、死力が $\mu_{x+s} + \mu_{y+s}$ に分かれることから、$x$ が先・$y$ が先の2つに割り振れる。
- 「$x$ が死ぬ」「$x$ は生きて $y$ が死ぬ」という排反な場合分けで書き直すと $\nqx{t}{x} + \nqx{t}{y} - \nqx{t}{x}\nqx{t}{y}$、独立な2事象の和事象の確率そのものになる(積の形が出るのは独立性を使ったから)。
- 最終生存者は「2番目に死ぬ」場合の割り振り。(a)と足し合わせると $\nqx{t}{xy} + \nqx{t}{\overline{xy}} = \nqx{t}{x} + \nqx{t}{y}$。
- この関係は年金・保険の現価でも同じ形で成り立つ。連生が分かれば最終生存者も出るので、計算量が半分になる。