この記事で扱う証明
教科書 第12章 練習問題(2)の(3)です。
生命表がメーカムの法則に従うとき、$x$ 歳と $y$ 歳の均等年齢を $w$ とすれば
$$\ddot{a}_{\overline{xy}} \geq \ddot{a}_{\overline{ww}}$$
を証明せよ、という問題です。上線の付いた $\overline{xy}$ は最終生存者、つまり2人のうち少なくとも1人が生きている限り支払う年金を表します。
均等年齢とは何か
まず前提の確認です。メーカムの法則の記事で扱ったとおり、死力が $\mu_x = A + Bc^x$($B > 0$、$c > 1$)の形をしているとき、独立な2人がともに生存する確率は、同い年2人の場合に置き換えられます。
$$c^w = \frac{c^x + c^y}{2}$$
でこの年齢 $w$ を定めると、
$$\npx{t}{x}\, \npx{t}{y} = \npx{t}{xy} = \npx{t}{ww} = \npx{t}{w}\, \npx{t}{w}$$
が成り立ちます。この $w$ を均等年齢といいます。年齢の違う2人を、同い年2人に置き換えて計算できる——これが連合生命の計算を軽くする技の正体です。
ここで注意したいのは、この置き換えが保証しているのは連生(両方生存)の確率だけだという点です。最終生存者(少なくとも1人生存)については、何も約束していません。今回の問題は、まさにその点を問うています。
最終生存者の年金を書き下す
最終生存者年金の現価は、次の関係から出発します。
$$\npx{t}{\overline{xy}} = \npx{t}{x} + \npx{t}{y} - \npx{t}{xy}$$
「少なくとも1人生存」の確率は、それぞれの生存確率を足して、両方生存を1回引いたもの。包除原理そのものです。
これを年金現価に入れると
$$\ddot{a}_{\overline{xy}} = \sum_{t=0}^{\infty} v^{t}\, \npx{t}{\overline{xy}} = \sum_{t=0}^{\infty} v^{t}\left(\npx{t}{x} + \npx{t}{y} - \npx{t}{xy}\right)$$
均等年齢 $w$ の側も同様に書けます。
$$\ddot{a}_{\overline{ww}} = \sum_{t=0}^{\infty} v^{t}\left(\npx{t}{w} + \npx{t}{w} - \npx{t}{ww}\right)$$
差を取ると、連生の項が消える
2つの差を取ります。ここで均等年齢の定義が効きます。$\npx{t}{xy} = \npx{t}{ww}$ なので、引き算した項が打ち消し合うのです。
$$\ddot{a}_{\overline{xy}} - \ddot{a}_{\overline{ww}} = \sum_{t=1}^{\infty} v^{t}\left(\npx{t}{x} + \npx{t}{y} - 2\,\npx{t}{w}\right)$$
残ったのは、単生の生存確率だけの式です。$t = 0$ の項は両辺とも1で消えるので、和は $t = 1$ から始まります。
あとは括弧の中の符号を見るだけです。
相加相乗平均が現れる
均等年齢の定義から、$\npx{t}{w}$ を書き換えます。$\npx{t}{ww} = \npx{t}{w}\cdot\npx{t}{w} = \left(\npx{t}{w}\right)^2$ で、これが $\npx{t}{x}\,\npx{t}{y}$ に等しいのだから
$$\npx{t}{w} = \sqrt{\npx{t}{x}\,\npx{t}{y}}$$
均等年齢の生存確率は、2人の生存確率の相乗平均でした。これを括弧に代入します。
$$\npx{t}{x} + \npx{t}{y} - 2\,\npx{t}{w} = \npx{t}{x} + \npx{t}{y} - 2\sqrt{\npx{t}{x}\,\npx{t}{y}}$$
右辺は、平方完成できる形をしています。
$$= \left(\sqrt{\npx{t}{x}} - \sqrt{\npx{t}{y}}\right)^{2} \geq 0$$
括弧の中はすべての $t$ で0以上。$v^t > 0$ なので和も0以上です。したがって
$$\ddot{a}_{\overline{xy}} \geq \ddot{a}_{\overline{ww}}$$
証明終わりです。
相加平均と相乗平均、そのもの
いま起きたことを整理します。
$$\frac{\npx{t}{x} + \npx{t}{y}}{2} \geq \sqrt{\npx{t}{x}\,\npx{t}{y}} = \npx{t}{w}$$
左辺が相加平均、右辺が相乗平均。高校数学で習う不等式が、そのままの形で現れました。
均等年齢は生存確率の相乗平均を取る操作で、最終生存者年金に効いてくるのは相加平均のほう。相加平均は相乗平均以上なので、元の2人のほうが最終生存者年金の現価は大きくなる、という筋道です。
等号が成り立つのは、すべての $t$ で $\npx{t}{x} = \npx{t}{y}$ となるときです。メーカムの標準的なパラメータ条件 $B > 0$、$c > 1$ の下では、$x \neq y$ なら $\npx{t}{x} \neq \npx{t}{y}$ なので、等号は $x = y$ のとき——2人がもともと同い年のとき——に限られます。
なお「年齢が離れているほど差が開く」と言いたくなりますが、差 $\ddot{a}_{\overline{xy}} - \ddot{a}_{\overline{ww}}$ は年齢差だけでなく2人の年齢の水準そのもの、利率、メーカムのパラメータにも依存します。同じ年齢差でも若い組と高齢の組では差の大きさが違うので、単純な比較はできません。
結果の意味を保険の言葉で
なぜ元の2人のほうが最終生存者年金は高くなるのか。式を離れて考えます。
最終生存者年金は「どちらか1人でも生きていれば払う」年金です。この年金にとって望ましいのは、2人の寿命がばらけていることです。年齢が離れていれば、若いほうが長く生き残る可能性が高く、支払期間が延びやすい。
均等年齢に置き換えると、2人とも同じ年齢になり、ばらつきが消えます。連生(両方生存)の確率は定義により変わらないのに、最終生存者の確率は下がる。年齢差という「保険にとっての多様性」が失われるからです。
連生では置き換えても値が変わらず、最終生存者では下がる。同じ操作なのに一方は不変・一方は減少というこの非対称が、第12章の面白いところであり、混同しやすいところでもあります。
つまずきポイント:均等年齢が保証する範囲
この問題の教訓は、均等年齢への置き換えが万能ではないことです。
保証されているのは $\npx{t}{xy} = \npx{t}{ww}$、つまり連生の生存確率だけです。最終生存者の生存確率を $\npx{t}{\overline{ww}}$ で置き換えて年金や保険を計算すると、答えがずれます。
計算問題で「メーカムの法則に従うとき」という条件を見たら、まず何を求められているかを確認してください。連生なら均等年齢が使える。最終生存者なら、$\overline{xy}$ を $x + y - xy$ に分解してから、連生の部分にだけ均等年齢を使う。保険についても同じで、最終生存者状態をそのまま同い年の最終生存者状態に置き換えてはいけません。分解するか、年金との恒等式を経由して計算します。この使い分けが、第12章の計算の分かれ目です。
まとめ
- メーカムの法則の下では、$c^w = (c^x+c^y)/2$ で定めた均等年齢 $w$ により、連生の生存確率を同い年2人に置き換えられる。
- 均等年齢の生存確率は、2人の生存確率の相乗平均 $\npx{t}{w} = \sqrt{\npx{t}{x}\npx{t}{y}}$ になっている。
- 最終生存者年金の差を取ると連生の項が消え、$(\sqrt{\npx{t}{x}} - \sqrt{\npx{t}{y}})^2 \geq 0$ という平方完成の形が残る。相加相乗平均の関係そのもの。
- 結論は $\ddot{a}_{\overline{xy}} \geq \ddot{a}_{\overline{ww}}$。$B>0$・$c>1$ の標準的なメーカム則の下では、等号は2人が同い年のときだけ。
- 均等年齢が保証するのは連生の確率だけ(そこでは値が変わらない)。最終生存者は値が下がるので、$x+y-xy$ に分解してから連生部分にだけ使う。