その名前をどこで見るか

生保数理では、ド・モアブルの法則という死亡法則として出てきます。年齢の上限を $\omega$(最終年齢)として、

$$\mu_x = \frac{1}{\omega - x} \qquad (0 \leq x < \omega)$$

と死力を置くモデルです。このとき生存数は $l_x = l_0 \left(1 - \dfrac{x}{\omega}\right)$ となり、年齢 $x$ の人の残り寿命は $0$ から $\omega - x$ までの一様分布に従います。「余命が一様分布」——これがこの法則の中身のすべてです。

一様分布なので、平均余命は $\dfrac{\omega - x}{2}$、生存確率 ${}_tp_x = \dfrac{\omega - x - t}{\omega - x}$($0 \leq t \leq \omega - x$。それより先は0)と、あらゆる量が一次式で書けます。タクティクスは第2章で、この法則とその定数倍($\mu_x = \frac{c}{\omega - x}$ の形)の諸公式を一式で整理しています。注意点がひとつ。余命が一様分布になるのは係数が1のときだけで、定数倍では生存確率が $((\omega-x-t)/(\omega-x))^c$、平均余命が $(\omega-x)/(c+1)$ という形に変わります。

どんな人だったか

ド・モアブル(Abraham de Moivre)は17〜18世紀のフランス生まれの数学者です。プロテスタント迫害を逃れてイギリスへ渡り、以後の生涯をロンドンで過ごしました。確率論の古典『Doctrine of Chances』で知られ、年金の価値を数学的に扱った著作もあります。死亡法則の単純化は、この年金計算のための仮定として使われたものです。

同じ人の名前を、数学の科目でも2回見ます。複素数のド・モアブルの定理と、2項分布の正規近似(ド・モアブル=ラプラスの定理)です。生保数理と数学の両方に名前が残っている人は、この試験の範囲ではド・モアブルだけです。

なぜその概念が必要になったか

18世紀には、現実の生命表を使った年金計算は手計算では重い作業でした。生存数が一次式で減っていくと仮定すれば、年金現価が等比数列と算術等比級数の和で閉じた形になり、手で扱えるようになります。ド・モアブルは当時の生命表(ハレーのブレスラウ生命表)を直線で近似することでこの形を使いました。現実を精密に写すことより、計算を実用の範囲に収めることに重心のある仮定です。

現代の試験でこの法則が使われ続けている理由も、実は同じです。死亡法則を単純化すれば、生命関数・平均余命・保険や年金の現価が閉じた式になり、180分の試験時間で解ける問題が作れます。現実の死亡率を写す法則としてはゴムパーツやメーカム(それぞれ別の記事で扱います)に譲りますが、問題設定の道具としてはいちばん出番が多いのがこの法則です。

試験ではこう出る

過去問26年分で、ド・モアブルという名前そのものは登場していません。しかし問題文が死力や生存数を $\mu_x = \frac{1}{\omega - x}$ 型で与えてくる形で、中身は繰り返し出ています。タクティクスも、死亡法則(ド・モアブル・ゴムパーツ・メーカム)は出題されたことがある論点だと明記しています。

出方の典型はこうです。

  • $\omega$ と年齢を与えて、平均余命・生存確率・保険や年金の現価を計算させる形
  • 「余命は一様分布」に気づけば、一様分布の期待値・分散の公式がそのまま使える形
  • 定数倍 $\mu_x = \frac{c}{\omega - x}$ に一般化して、$c$ の効き方を問う形

コツは、問題文に $\mu_x = 1/(\omega - x)$(係数1)が見えたら「一様分布の世界に入った」と切り替えることです。切り替えたあとは、生保数理の問題というより一様分布の計算問題として処理できます。係数 $c$ 付きなら一様分布ではないので、上の定数倍の公式に切り替えます。

まとめ

  • ド・モアブルの法則は $\mu_x = 1/(\omega - x)$。余命が一様分布になる、いちばん簡単な死亡法則。
  • ド・モアブル本人は18世紀の数学者。複素数の定理・正規近似と合わせて、数学と生保数理の両方に名前が残る唯一の人。
  • 当時の生命表を直線で近似して計算を軽くするための法則。だから試験の問題設定として出番が多い。
  • 名前は過去問に出ないが、$\omega - x$ 型の設定として繰り返し登場。係数1なら一様分布、係数 $c$ 付きなら定数倍の公式へ切り替える。